第十六話 一堂に会して…
ほどなくして、トーマス、マデリン、ブライアンといったサムトアール側の面々と、先ほどの手紙によってやってきた、井上成美、今村均と表向き日本軍の一団を指揮している角田大尉が何人かを従えてやってきた。
さらには、勝や榎本の意を汲んだ伝令が武士たちのところにも赴いて、何人か引き連れて戻ってきた。
こちらには鮮やかな青に彩られた第二帝政時代のフランス陸軍の制服を纏った軍人が二人いる…彼らがジュール・ブリュネ大尉とアンドレ・カズヌーブ伍長か??他は、戊辰戦争のときに江戸から脱走して、後に蝦夷共和国を名乗った榎本の同志を中心とした面々のようである。
場を移し、シバタも借り物ながら身なりを整えてそれぞれを出迎える。
ふと、シバタは疑問を思いつく。
と、同時に、その疑問を傍らにいたロジャーにぶつけてみる。
「ロジャー、素朴な疑問なんだが、アメリカやそのほかの国の偉人や政治家っていないのか?」
「その疑問はもっともだ。もちろん、それなりの人が皆無…でもないのだが、一部はその…シズラー伯爵が来た時に一寸やらかしてなあ…そのまま、不穏分子ということで、伯爵の管理下で拘禁されている」
「でもロジャーは、なぜ無事だったんだ?」
「俺か?俺は、トシが聞いたこともないような田舎町の役場の職員…だった。だから、最初は目立たず、目立つ連中が一網打尽された後に、改めて街の運営が出来る者…とシズラー伯爵が質した時に、しぶしぶながら応じてしまった…というわけさ」
苦笑しながら、ロジャーは応じた。
そういうことであれば、ロジャーがシズラー伯爵直々にここを治めるよう言ったのにも合点が行く。
「おれは、ロジャーはもっと上の、たとえば州や連邦機関に携わる仕事でもしていたのかと思った」
「それは買いかぶりすぎだ、トシ」
「いやいや、謙遜しないでくれ。ロジャーがいたから、これで収まっている。違うかい??」
シバタは、自分のいた日本の役人や政治家がヴィレッジの頭に座っていたら、果たしてどうなっていたのだろうか??と思わずにはいられなかった。
無論、彼らがみな無能…などと言うつもりは毛頭無いが、政治的な決断のスピード…という部分では諸外国の同類の人たちに比べたら…
それに、政治家や役人に限らず責任という部分において、日本人はどうも曖昧にしてしまう部分もある。
結果オーライなのかも知れないが、シズラー伯爵の策は今の時点では正しかったのかもしれない。
(そんなこんなで、ここにいる多くは時代を問わず日本人だったりするわけだけど、失礼ながら濃い面子だよなあ??)
そんなことを思いつつ、シバタは集まった面々を見渡す。
そして、ロジャーと手分けしながら、サムトアール側の人間にはここにいる人物の本人すら知らないことも含めた経歴などを判る範囲で、地球から飛ばされてきた面々にはここがどこであるかから始まって、ここが地球ですらなく、元の世界にはおそらくは二度とは戻れないこと、この地域の情勢や文化や産業の水準なども説明された。
その上で、今後我々はどうして行くべきか?ということを説明し終わったら、重苦しい空気に包まれた。
その中で、武士のグループと陸軍のグループには武装解除はしないものの、このサムトアールでともに手を携えて街づくりや開拓、サムトアールや一部の日本人たちにとっても新たな技術の開発やその習得に力を貸して欲しいとロジャーとシバタは地面に頭をこすり付けんばかりに下げたのだった。
そこで口を開いたのは、勝だった。
「この柴田俊宏ってやつあ、見た目はパッとしねかも知れねえが、とんでもねえ腹をおいらたちに見せてくれた。中にはすぐに納得できねえこともあるだろう。でも、ここを出てってたところで生きちゃあ行けねえぜ??俺はここで、ここの連中と国や時代、身分なんか関係ねえ海軍を作ってみたい。力を貸しちゃあくんねいかい??」
続いたのは榎本。
「諸君、我々は江戸をジャンプして東北を転戦しながら蝦夷に向かうという途中で、我々のみがここに飛ばされてきた。幸い、勝先生や田中久重殿を始めとした高い見識を持った方々とも再会できた。元の世に戻れぬ以上、ここを蝦夷地と思いサムトアールの人々と手を携えて開拓や、新たな技術の開拓に勤しもうではないか?この榎本釜次郎、伏してお願い申す」
さらに山本五十六が続いた。
「日本軍将兵諸君、すでに聞き及んでいるとおり、ここは戦時中の大日本帝国ではない。まして、地球でもない異世界である。ここに飛ばされた段階で、畏れ多くも大元帥陛下の兵ではなくなっておるのだ。元の世界には戻れぬ今、一人一人が各々成しうることを考えつつ、この世界でともに手を携え生きていくすべを見出して欲しい。兵の中には事態の変化をすぐに理解できない者もあるかも知れぬが、軽挙妄動は厳に慎みつつ、我々と同じく地球からこちらに飛ばされた様々な時代の、つい先日までは我々が敵国として戦っていた諸国から来た者たちとも手を携えて、新たな世界での営みにぜひとも力を貸していただきたい。この山本、このとおり諸君にお願い申し上げる」
そして、三人ともロジャーとシバタに並んで平伏すのであった。
水を打ったようにしばしの静寂の後、言ってることはそれぞれながら、歓声と拍手。
ようやく、このヴィレッジが動き出そうとした瞬間であった。
「どれどれ、話がまとまったところで、私もこの話の輪の中に加えてはくれないか?」
そこへ入ってきたのは、シズラー伯爵そのひとであった。
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