第十話 宝探しと夢の発現

シバタは、なぞの物資が集積されている場所に出向く。

なぜか、マデリンがくっついてくる。


「マデリン、くっついて来るのは止めないけど、物の積み重なった山を見たところで楽しくはないんじゃないか?偉大な魔法士様に物の整理をさせるわけにはいかないし…」


「トシさん、ここには私たちの知らない物が沢山あるわけですからぁ、それを少しずつ知っていくこともぉ大事なことですよぉ?」


見てくれとは裏腹に、マデリンは異世界の品々に興味津々のようだ。

ここで暮らしていく以上は、マデリン達サムトアールの人たちの協力は不可欠なわけだし、そのうちこちらの持つものと魔法の融合…みたいなことは必要なのかなあ?とおぼろげながら、シバタは考えている。


「ロジャーたちから聞いているかもしれないけど、この世界ではまったく役に立たないものも沢山あるらしい。我々のいたところでは生活に欠かせないものでも、ここでは単なるガラクタってものも多いだろう。それに、武士や軍人の集団とも時代の開きがあるから、彼らにとっての未知のものも沢山ある。それらを活かす事も含めて、サムトアールの人たちの知恵もまた必要なことも沢山ありそうなのは言えるんだけど、まずは何がどれだけあるか、あるもので何が出来るかそれを掴んだ上で、我々とサムトアールとの隔たりを埋めつつ、ともに暮らしていく術を高めて広めていけたらなあというのは個人的に思うところだよねえ」


シバタは思ったことをそのまま言う。


「とても興味深いですわぁ。ロジャーさんは、デンキというものとセキユ…だったかなあ?があればぁ、魔法が無くても高度な文明が拓く事は可能…みたいなことを言っていましたけどぉ」


まだ詳しくは話せていなんだろうなあ?と、思いつつもシバタはマデリンの問いに答える。


「ざっくりだなあ?まあ、ロジャーの言うように石油や石炭といった地面に埋まっている化石燃料を掘り出して、それを使って工業の機械化や大規模化…というのは、極めてまっとうな考え方だと思うけど、マデリンは鉱石がどこにでもあるものではない…ってことは分かるよね?」


「はいい。鉱山をめぐって戦争が何度も起きましたぁ」


やはり、古今東西鉱物資源の利権をめぐっての争いというのは、この異世界でもそう変わらないらしい。


「それと同じことが起こりうるし、これは可能性の話なんだけれど、我々異世界人がいわば大量発生しているのはここだけなんだろうか?なあって」


「というとぉ?」


「サムトアールのここ以外にも、自分たちのような異世界から飛ばされた人たちがいて、その人たちが他国の政に影響を与えている可能性はゼロではないってこと。そして、そうではないと言い切れるだけの証拠は、今のとこ無いってこと。ここだけなのか、それともほかでも同じ事が起きているのかさえ分かっていないわけで」


「たしかにぃ。ここで起きてる事は他でも起きている…というのは、有り得ますねえ」


「まあ、可能性のことでここで何もしないわけにはいかないし、ここはここでやることは山積みでロジャーたちも日々のことに追われて、なかなかすべてに目が行き届いていなかった。でも、もちろん、ロジャーたちを責める事は誰にも出来ないさ。それに日々生き抜くだけで、そんな余裕なんて誰にも無いさ。ここがきちんとした街にでもなって、食うに困らない状況にでもなってくれば、それぞれが抱える不満が噴出してくることはあるだろうけど、今気にする話でもない」


自分に言い聞かせるように、シバタは言う。


「トシさんは、ここで何かやってみたいことってありますかぁ?」


話の流れを変えようとしたのか、マデリンが突飛なことを言い出す。


「うーん…。まだ、今日ここに来たばかりだからなんとも言えないけど、まずはこちらのことをもっと知っていかなくてはいけないし、我々のもので伝えられるものはこちらに広めたいなあと。文化や食生活、そういったことも含めてね」


「その他にはぁ?」


「魔法と技術の融合、自分たちの世界で当たり前だったことをすべては物理的に無理だけど、魔法を活用して代替出来ないかなあって」


「どういうことですかあ?」


「知ってると思うけど、われわれの元の世界は魔法というものが存在しない…というか、少なくとも公には認知されていない世界で、物理による機械の文明、石油や石炭を燃やすことで道具を動かしたり、灯りを得たりさまざまなことをしていたんだけど、そのすべては無理にしても、いくらかは魔法というものを活用できないかなあ?なんて思ったりね。もちろんそれにはマデリンを始めとして、魔法の能力を持つ方たちの協力は不可欠だし、それらで得られたものはこのサムトアールに限らず広く世界に広められたら、今よりもっとこの世界は豊かになる」


「それはすごいことですぅ」


そんなことを道々話しているうちに、飛ばされてきたものの集積場になっている広場にたどり着く。

さまざまな商品名の書かれた段ボール箱や金属缶、プラスチック容器などが雑多に積まれている。

一目見ただけでも、家電、食品、洗剤などの日用品、何かの部品のような金属の塊のようなものまである。表記も日本語、英語、中国語、韓国語…のみならず、ありとあらゆる言語で書かれている。


「こりゃあ、品目別に分けるだけでも大変なことだなあ」


誰かがやらねばならぬことと理解しつつも、途方に暮れるシバタであった。

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