第九話 倉庫の建築と今後の見通し
シバタは、天幕の中でお好み焼きをパクついていたロジャーに声をかける。
「ロジャー、今し方シャロンに聞いたんだけど、時々自分たちのいた地球からと思しきモノがあちこち見つかるらしいな?」
「ああ。それが?」
「今までどんなモノが、発見されて、またどんなモノが保管されているか教えてくれないか?」
「それは、どういうことだ?」
「今、ロジャーもお好み焼き食ったろ?それのソースだって、どうもそういったモノらしくてね?」
「これの店の人間がそう言ったのか?」
「いやあ…企業秘密…って教えてくれなかったけど、二十歳そこそこの女の子二人で何日かで、しかもなにもない状況で作れるような代物じゃないんでね。別に彼女たちをどうこうする積もりじゃなくて、どんなモノがあるかが分かれば、例の、サムライやアーミーを説得するときに使えるかと思ってさ」
単純に、シバタは里美たちがお好み焼きのソースを見つけたなら、ほかの食材や調味料とかもあったりしないのかな?と思ったのだ。
「確かにそういったモノはあったりしたし、保管しているモノの中にもあるかも知れない。実はなトシ、そういったモノの中には日本語や、言ってしまえば我々の解さない言語でパッケージに書かれたモノも多くてな。どこまで聞いたかは知らんが、明らかに生鮮食品や衣類とか、早急に処理しなくてはいけないものとか、必要と思われるモノ以外はほとんど整理が進んでいないのが実情で、リストも作れてないし、騎士団の連中や、トレジャーハンターと称する連中が見つけてきては増えていく…という状況でもある」
「そのあたりは、組織化されてはいないのか?」
「今のところ手が回らないから、見つけてきて問題のないモノに関しては、基本的に持参した人間に渡している。生鮮食料や生活必需品のようなモノやここではいっさい使えない電化製品やパソコン、機械類とかに関しては、報奨金を与えてモノはこちらで引き取っている」
「このサムトアールで、そういうのを統轄する組織を何というか知らないけど、その、ギルドみたいなものはここにはないのか?」
そこまでヴィレッジがやっていたら、仕事の量としてとてつもない量になる。
回収してきた品物の引き取りや整理、管理や分配はヴィレッジとは別立てで事を進めた方がいいのではないかとシバタは思った。
例えとしてはよくないかも知れないが、災害の被災地で救援物資があちこちから届けられるが、集めて分配するところがパンクしてしまい、結果、物資が必要な人のところに行き渡らない…ということに極めて似ていることが、ここでも起きているに等しい。
「うーん…ギルドを作るような話はなくもないが、なかなか進展できなくてな。あれば、探索依頼…って体も取れるだろうがねえ?」
「ロジャー、今その物品整理に割ける人材っているのか?いないのなら、俺が住人雇って始めてもいい。それと、どっかに早急に倉庫を建てた方がいいかもな?」
「どのくらいの規模で?」
「仮設でもいいけど、大きい分にはいくらでも。露天においておけば傷みも早いし、よからぬことをたくらむ連中には格好の目印になってるんじゃないか?今の状態は?」
「確かにな。今の騎士団の頓所の脇にでも建てて、彼らに見張ってもらうという手が良さそうだな?」
まだまだこれから出てくるかどうか分からないものをアテにするわけにもいかないが、ひとまずは必要なものと今ここでは使えないものと分けた上できちんと管理して、いたずらに住人に過度な期待を持たせないことも必要だと、シバタは思った。
「ロジャー。あんたが先頭に立って住人たちを引っ張っている努力…というのは、ほんの数時間しか見ていない俺なんかが言うことじゃないが、その数時間だけ見てても大変なものだということは理解できる。でも、何でも一人で背負い込まない方がいい。俺も出来ることはするけど、もっと悠然と構えててもいいんじゃないか?トップがあたふたすると、下は不安になっちまうもんさ。」
「行きがかり上、ここの代表…みたいなことやってるけど、私だって目の前のことで一杯一杯なんだろうな」
珍しくロジャーが、らしくも無いことを言う。
「いや、ロジャーだからこそ、この状態で維持できてるんだろうと俺は思う。それは間違いないさ。そもそも、なんでロジャーが代表なんだ?」
「ああ、ここに我々が出現しだした当初に、シズラー伯爵がここを訪れて、面談したメンバーの一人だった。そのとき、伯爵からロジャーにここを委ねる…困難はとてつもなく多いだろうが、我々が直接統治してしまうよりも、異世界から飛ばされたもの同士で手を携えられることもまたあるだろうし、我々では理解の出来ないこともまた多かろう…ってね」
ようやく、ロジャーが代表になった理由を知ったシバタ。
「まあ、そのためにかなりの裁量権を認めてもらっていて、一種の治外法権みたいなことにもなってるが、同時に住人たちの反乱が起きないように、騎士団が目を光らせている…ということでもあるのさ」
「なるほどねえ。騎士団がまとまった数いるのは、そういう牽制の意味もあるわけだ?」
「まあ、変な事態にならない代わりに、集団で屯してるニホンのサムライとアーミーに関しては、膠着状態にもなっている…ということだ」
「やはりそのためには、彼らの緊張状態を解く必要がある。食い物だけで釣れるとも思わないが、トーマスに頼んだ買い付けのほかにもやはり、プレゼントはあった方がいいのかと思ってね。コメの飯だけでは心許ないし、出来ればコメの備蓄は置いておきたいし、将来的には何かと使えると思う」
ロジャーだから言える話を聞いて、シバタは話を続ける。
「今言ったことのためにも、発見した品物の整理は早急に動いた方がいいだろう。その先にサムライやアーミーの説得・恭順工作と言っていいが、それがあると思う。前にも言ったが、扱いづらい連中だとは思うが、彼らがここに飛ばされてきたこと自体は我々と同じで罪はない。いかにして状況を納得させられるかということでもあるし、何回か下交渉まで出来たら、伯爵とロジャーにも出張ってもらう必要はあると思う」
「なぜ伯爵が?」
「この地の最高位だろ?伯爵は。領主であり、騎士団という軍隊の最高指揮官でもあるわけだ。まさか、国王デ・シャバール陛下をここに引っ張り出すわけにもいくまい?」
「それはそうだな…どれくらいかかると思う?」
「そうだな…トーマスの調達と、倉庫を作って発見品の整理次第になるとは思うので、具体的に何日後というのはまだ何とも言えないなあ。俺自身、早いに越したことはないと思うが、空手形であそこには行けないよ」
シバタも、今の状態が長引くことは良い方向に向かないということは理解している。
しかし、何もない状態で彼らと交渉するのは危険だとも判断していた。
まずは、ヴィレッジ内に倉庫を作って、そこで整理をしながら説得工作に使えるような物品を探しつつトーマスの物資調達待ちということで固まる。
まずは、倉庫を建てるのに、騎士団とシズラー伯爵側の人間と交渉…というのがシバタの仕事だ。
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