第八話 地球からの物体X
お好み焼き屋の店先。
さっきまでの騒動?はひとまず落ち着く。
ニルスが、フランツとシバタの分までお好み焼きを食べてしまったので、改めて焼いてもらっている。
「ニルス」
「分かっているとは思うが、今焼いてもらっている分は、ニルスの奢りだからな!」
「あうう…」
うなだれてはいるもの、ニルスはこのお好み焼きがことのほか気に入ってしまったようで、口元はゆるんでいる。
「フランツ」
「トシ!興奮してしまってすまなかった」
「まあ、フランツにこんな一面があるとは思わなかったが、情に訴えるタイプなんだな?そこが分かったことは収穫かな?」
「怒っていないのか?」
「ああ。怒るというよりも、さっきの件はあくまで彼女たち次第だからな…落ち着いたら気持ちが変わるかも知れんし、変わらなかったら変わらなかったで、そのとき考えればいい。ただし、ああいう焚き付け方は二度とごめんだ」
「気を付ける、重ね重ね済まなかった」
冷静沈着で、暴走なんかしないようなフランツが、ついさっき出会った俺のことをこうまで持ち上げてくれたんだ。あまりくどくど言うのも可哀想だしな…とシバタは思った。
「あの、これ…みなさんで召し上がってください。お詫びというか何というか」
春香と里美がお好み焼きを大量に詰めた包みをシバタに渡す。
「そんな、私の連れが興奮してけしかけてしまったようなものだから、気にしないで」
「いえ、では、お近づきの印ということで。あ、ニルスさんには、別に渡してあるので、渡さなくていいですよ?」
二人は落ち着いたようで、恐縮しながら言ってくる。
「もちろん、私も里美も柴田さん、いえ、トシさんのことを諦めたわけではないですよ?」
「そう言ってくれるのは素直にうれしいし、こんな粗忽者のおっさんでよければ、袖にする気はないさ。もちろん、少しずつでもお互いのことを知っていきたいしね」
とシバタは、出来る限りでの大人の対応をする。
「「はい」」
まあ、とんだドタバタになりかけたが、どうやらみんな落ち着いたようだ。
ただ一人、新たに燃料を補給されて、怒濤のごとくお好み焼きを食べている、ニルスを除いて…。
「まあこれからも、暇見て買いに来るから、そん時はよろしく!アレが禁断症状起こさない程度には」
「禁断症状って…でも、ここには二人、お預けを食ってる女がいるんですからね?」
「勘弁してくれ」
みんなしてどっと笑った…。
…折角いただいたお好み焼きがあるので、寄り道せず、シバタ、ニルス、フランツの三人はヴィレッジの中央にある天幕へ帰った。
「みんな、ただいま。おみやげをもらってきた」
「なにこれは?タコス?パニーニ?」
シャロンが訊いてくる。
「ニホンのお好み焼きというものさ。本当は箸とか、コテと呼ばれるヘラで食べるんだけど、箸が使えない人が多いだろうということで、タコスやパニーニみたく食べやすく包んだそうだ」
「どうしてそんなにたくさん?」
「ああ…ちょっと…一騒ぎになってね。彼女たちなりのお詫びのつもりらしい」
「それは、私が興奮してしまって、その店の女性たちを変にトシにけしかけてしまったんだ」
「まあ!フランツが!?珍しいこともあるのねえ」
「それに中毒患者が一人できてしまった…」
と、シバタは未だにお好み焼きを両手に抱えて食べ続けている、ニルスを指さす。
「YOU!このいい匂いはなんなんだYO?」
「あ、フレディ!フレディも食べてくれ。ニホンのお好み焼きだ!」
「タコボールみたいなものか?」
「タコボール?たこ焼きのことか?まあ生地はそれに近いかな?もっともタコは入っちゃいないが」
あ、フレディってふつうに会話できたのか…と、妙なことに気づくシバタ。
「具はどんなものが入っているの?」
「店やメニューによっても違うけど、生地は小麦粉を水で溶いたものに卵。店によっては擦り下ろした山芋が入ったり粉を溶くのに出汁を使うところもあるかな?後は刻んだキャベツ、紅ショウガ、店によっては天ぷらの揚げかす…生地はこんなもんで、そこに豚や牛の肉、イカやタコや海老、季節によっては牡蠣とか入れるお店もある。まあここじゃ、肉はともかくシーフードはちょっと無理だろうな…地域によって、別の作り方があったり、卵焼きや焼きそばと組み合わせたり、バリエーションは豊富だし、キリがないくらいにトッピングも色々ある」
さすがに、飛ばされてくる前はダイナーで働いていたというだけあって、シャロンは初めて見る料理に興味津々でシバタに訊いてくるので、シバタは簡単に説明する。
「オコノミ、無限大」
手持ちを全部食べ終わったニルスが、こちらのお好み焼きに照準を合わせてきた…。
あの小さい身体のどこに入るんだと、シバタは不思議がる。
「この茶色いのはソース?」
「ああ…このソースをどうしたのかが謎なんだよなあ?ここではそんなものないだろうし」
「自分で作れるもの?」
「レシピがあれば作れなくはないと思うけど、恐ろしく手間暇がかかるから、女の子二人で作り上げたとはちょっと考えにくいし、さっき出かける前にシャロンが淹れてくれたコーヒーみたいなことでもあったのかなって」
「どういうこと?」
「飛ばされてきた、ソースの缶をたまたま見つけたとかね」
「見つけたものを確認した上で、それを占有して使っているのなら問題ないわけだし。どうしてそんなものが出てくるのかは謎だけど」
そっか、やはりモノだけが飛んでくるようなこともあるんだとシバタは思った。
「いろんなモノが出てきてるの?」
「まだきちんと統計が取れるような体制も出来ていないけど、色々見つかっているみたい。ただ多くてもトラック1台分とか、海上コンテナ1個分とか位の量らしいけど、パソコンがトラック1台分出てきてもねえ…」
なにやらトラックの積み荷や、海上コンテナの中身だけがこちらに飛んできているとか、そんな事なのだろうか?でも、それなら、コーヒーの件にしても、目の前にあるお好み焼きのソースの件にしても、納得は出来なくても合点の行く話ではある。
「その件は、ロジャーも知ってるの?」
「もちろん…見つかったモノが食料とか衣類ならば住人たちに放出しているし、発見した人間に全てではないけど、占有も一応認めてるわ」
そうか、そういうことでもあったのかとシバタは思った。
確かに見つけたモノが生鮮食品だったりした場合、ヴィレッジで管理しようにも今はそんな状況ではなく、仮に集めて管理してもその間に腐らせてしまうのは必至なわけで、だったら占有を認めたり、分配した方が無駄がない…ということにはなる。
「そういうのを見つけることで、まあトレジャーハンターみたいな職業とかになっちゃっていたりするのか、ひょっとして?」
「そうねえ、こちらに飛ばされた人だけでなく、こちらの人でもいるわ…鑑定出来るのは当然飛ばされてきた人間のみだけどね。騎士団も調査名目で隊を出しているわ」
そのあたり、どういうスタンスなのかは、ロジャーに訊いてみるようだな…。
発見したモノを、モノによってはガラクタだと言ってこっちの人を煙に巻くことはやむを得ないだろうし、実際現状は我々も使えないことには変わらない…そうシバタは思った。
「そう言ったモノは、特定の場所で見つかる…ということではないんだね?」
「同じ場所で見つかれこともあるようだけど、続けてではないみたい。騎士団長が網を張れない…ってぼやいてたの訊いたことがあるから」
「トラックやコンテナごと飛ばされてきたというのもないのかな?」
「今のところは…という感じかしら。私たちが調べた範囲ではそういうのがなかった…ってことね」
ということは、今後も変わらないのだろうか?
忽然とトラックとかが出現することもあるのだろうかと考え始めるシバタであった。
結局、お好み焼きはシバタ以外のみんなも食べて、残った分は当然のようにニルスの胃袋に収まった…。
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