「遠慮する。僕は今、しっぴつで忙しいんだ。あとにしてくれ。」

「手紙なんてあとでエエやろぉーもぉー!」

「じゃま。」


 あのね。

 僕は、生まれた村でずっと、蝋燭の明かりしかない、とてもジメジメとした場所で、なにをするにも一人では許してもらえず、いつも顔には重たい仮面をつけられて、閉じ込められていました。毎日毎日、やせ細って病気みたいな人たちが僕のところに来て、柵越しにお祈りをするけれど、僕にはなんの力もないし、食べきれない量の豪華な食事を捧げれられるけれど、それは僕よりも他の人が食べるべきだし、僕はもっと他のものが欲しかった。とても息苦しい毎日で、目眩に倒れそうになったとき、あの重たい重たい仮面を、雅が外してくれたんです。ずっと、誰も知らない場所に閉じ込められていた僕を、見つけ出して連れ出して、暖かな場所へと連れて行ってくれたんです。新鮮な空気が、嗅いだことのない匂いが、蝋燭以外の輝きが、いっぱい入り込んできました。あのとき、あの雅の顔を見たときの、あの気持ち。あれは、いったいなんなのでしょうか。


「なぁ、読んでもエエ?」

「だめ。」

「なんでぇなぁ。」

「なんとなく。」


 それまで僕の毎日は、時計の針で決まっていました。長い針が一周したら、行動を変えて、短い針が二周したら、一日が終わって。その針の動きが、一分でも一時間でも十時間でも関係なく、気付くこともなかったでしょう。

 でも、雅に救い出されたあの日から、それは変わりました。僕は、一日が二十四時間であることを、一時間が六十分であることを知りました。そうして、その短さも。

 雅と過ごす一日は、ビックリするくらい短いんです。

 何故なのでしょうか。


「じゃあさ、俺も書いていい?」

「え。」

「佐助さんに、手紙。」


 僕はまだ、よくわからないことでたくさんです。

 でも、ただひとつわかるのは。それは。

 雅と、ずっと一緒にいたいということ。

 雅もそうならいいのにと、思うこと、です。

 内緒ですよ。

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