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帰りたい気持ちは少しだって薄れていなかった。
けれど、無邪気な雅の笑顔が佐助の後ろ髪を引いた。
「今夜の抗争、一般人が相手だから若手メインで行くって。雅、お前も参加するか?」
「ハイ、是非!」
余裕なんかない。でも、このまま雅を騙しながら責任を押し付けて、自分は帰りたい場所に帰っていいものなのか。それで本当にチノメアを救ったと言えるのだろうか。
心に引っかかった靄が取れずに、雅のことは社長にすら話すことが出来ていなかった。
(だって、雅なら。)
佐助はただただ、ひとりで悶々と悩んでいた。
雅はなにも知らないから、だから。
そう、思っていた。
(雅は、)
でも、
「覚えておきぃや。俺みたいな奴のことを、この村では、穢れって言うんや。」
「この村は、俺たち八鳥野会が買った。それにお前たち村人が反抗したから、こうなったんや。『孤立した集落が山火事で壊滅』ってな。はは、汚いやろ。これが俺たちで、これがこの世界で、これが穢れや。お前の村のモンは、なんにも間違ってないわ。この世界は、こういうことでいっぱいで、もう、こういうことからお前を守ってくれる奴は、居らんのや。」
「俺と居る、言うんは、こういうことやで。」
ヨルドリ村での抗争の最中。
仮面をつけた少年に、雅は言った。
(ちゃんと理解していたんだ。)
(全て。)
かちゃり、となにかがハマったみたいに、佐助のなかで全てが決まった。
(雅に、俺の、チノメアの運命を、託そう。)
「そのカラスくんに肩入れすんのはいーけど、どうやってチノメアを裏切らないかテストすんのさ。佐助のヘボヘボな脅しに動じなかったーだけじゃ、チノメアの情報は渡せないお。」
「それなー。」
「カラスくんにチノメアからオマケ送って、そのオマケにメロメロにさせてチノメアを売れなくするっていうのが一番手っ取り早いけど、人材がねー。佐助、カラスくんのオマケになってみたら?」
「多分アイツ、一日で胃に穴が開いて口から血吐いて死ぬ。」
「佐助なんかに怯えるヘタレかぁー。」
「あるじさまー、帰ってきてたんですねー!」
雅を跡継ぎにするため、本格的に動き始めた頃。
佐助は、八鳥野会の抗争の最中で拾った美少年を、レインレイター開業以来の『新入社員』として送り込んだ。
無論、その美少年こそが鷹である。
「鷹ぁ、お前また背伸びたんじゃないのかー?」
「最近めっちゃ食べんの、オイラとふつーにチョコ取り合うからね。」
「社長の食欲はいつになったら衰えるんだよ。」
佐助は時間を見付けてはレインレイターへ足を運び、鷹と社長に会いに行った。鷹は(ニコニコしている姿しか見たことないからか)佐助によく懐き、佐助も我が子のように鷹を可愛がった。八藪組関係者からは想像が出来ない姿だけれど、レインレイター側からしたら八藪組での佐助の姿のほうが想像できなかった。
「早くこっちに帰って来なきゃ、自分を見失っちまいそうだ。」
「口調とかはもう、無理かもねぇ。あと煙草も。」
「やだやだ、俺は鷹の父親として胸張れる誠実な大人に戻るんだ。」
「僕ももう、大人だよ!」
可愛らしいドヤ顔(佐助フィルターで数倍増)を見せた鷹に、和やかな空気が流れる社長室。
「だから、チノメアのオマケとして、あのとき、僕を救い出してくれた、若くてかっこいい、長髪で黒髪の人に恩返しがしたい!」
その空気を凍りつかせたのも、可愛らしいドヤ顔の鷹だった。
「……は?」
「あー、なるほど、その手があったかぁ。」
「いやいや、ダメだ!鷹を売るなんて、俺には出来ない!」
「ふぅん、じゃあ一生ヤーさんやってたら?」
「っ!」
「主様、いいでしょう?あの、若くてかっこいい、」
「あんな奴、キモロン毛で充分だ!」
「きもろんげ!」
「よっしゃ決定ー!」
鷹を雅の元へと送り、チノメアの情報と身の危険を天秤に掛けさせ、最後の最後までチノメアを売らなかったら、雅に八鳥野会のことを託す。
そのために、たくさんの手回しをした。雅を出来るだけ窮地に立たせたり、用心深い雅が鷹を部屋に入れられるよう誘導をした。鷹と雅はなにも知らずに、事は作戦通りに進み、そうして、鷹は恩返しのために、雅の元へと行った。
チノメアから、チョコのオマケとして……―――
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