15

「……鷹?」

 なにをしているのか。もしかしてもう既に捕えられたのか。問いただそうとして、気付いた。


 鷹の小指が、ピンと、立っている。


「……さま。」

「え?」

 ずっと黙り込んでいた鷹が、ようやく口を開いて、なにかを呟いた。

 キラキラと輝きに満ちた目で、一拍置いて、今度はハッキリと、言う。


「あるじさまっ!」

 

 それは確かに。

 佐助に向けて、放たれた言葉。

(……え?)

 そして雅は、自分のこめかみに当てられたものへ、ゆっくりと視線を移す。

「……え?」

 雅の思考は、ショート寸前だ。いやもう、完全にショートした。

 こめかみに当てられているのは、黒光りした硬いもの、ではなく。

 チョコ型の、通信機で。

「主様!なんでこんなところにいるんですか!主様!」

 満面の笑みではしゃぐ鷹が、佐助にじゃれる。その弾みでずれたスーツから覗くのは、赤い、ジャージ。

(えっと、つまり、これは、その。)

 雅が機械なら、間違いなく頭部分から黒い煙が出ているだろう。ぷすぷすと音をたてて、なんとか現状を整理しようと試みる。……無理だ。さっぱりわからない。どうして佐助が、チョコ型の通信機を、赤ジャージを。それではまるで、

「チノメアの、オマケ、みたいな。」

「ビンゴー、だいせいかーい。」

 そこでようやく、佐助が口を開いた。無表情で万歳をして、しがみつく鷹を剥がし、スーツを脱ぎ捨てる。チョコ型の通信機を耳に着けて、あっという間に、鷹と同じ格好に。

「っかぁー!長かったぁー!鷹ぁ!よーやくこれで、俺もチノメアに帰れる!」

「本当!?」

「あぁ、本当だ。もー、めちゃめちゃ長かったー。第一ヤーさんなんて、俺の柄じゃないんだよ。ったくー。本当に我らが社長様は、人使いが荒すぎる!」

 佐助は草むらに寝転がって、鷹もその横に寝転がった。そうして雅に向かって、手招きをする。

「まぁまぁ、座れよ雅チャン。ちょっとやそっとで済む話じゃないんだから、さ。」

「え、あ、は?」

「おバカでどうしようもないダメ雅チャンでも理解できるように、長い長い昔話を、してやるよ。」

 佐助はポケットから取り出したパーラメントを銜えて、火をつける。

「全ての始まりは、もう、二十年も前のことだ……―――」

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