13

「あの時から、僕は、ずっとお前のこと探していたんだ。ずっと探して、それで、チノメアが僕をお前の元に連れて行ってくれたんだ。」

 七年という時間で、鷹は、狐の面の少年は、ずいぶんと成長した。暗闇で、一瞬しかその顔は見えなかったけれど、あのときの少年は間違いなく鷹である、と確信できた。

「お前に伝えたい言葉を探した。お前の言葉の意味を探した。いろいろ見付けて、いろいろ知った。お前や村の人が言う、穢れ、がどういう意味か。僕はちゃんと知ったよ。ちゃんと全部知って、それでもやっぱり、お前といたいって、思ったんだ。僕の気持ちは、あのときからずっと、変わってないんだよ。」

 鷹は雅の胸元に手を添えて、そっと額を当てた。雅の心臓の音と、その暖かな体温を、じんわり感じた。

「だからこうして、会いに来たんだ。」

 堪らなくなって、小さな体を、でもあの時に比べたら随分大きくなった体を、力いっぱい抱き締めた。雅だってあの日のことを、忘れたことなんてなかった。もう一度会いたいって、何度も少年の消息を追った。良くない情報を流されて、諦めたほうが互いのためなのか、と思うこともあった。でも少年は、鷹は、懸命に雅を探し、見付け、会いに来てくれた。

 頭を撫でながら、優しく抱きしめる。小刻みに震える体。

 あぁ、ようやく会えた。

 ずっと一緒に居たい。ずっと笑い合っていたい。どうしようもない時間を共にして、ずっと、ずっと。

「あれからどうしてたん?売られた先でひどい目にあったり、しとらんかった?」

「なんにも、僕はずっと、しあわせにいたよ。」

「そうか、」

 微笑む鷹の頬を撫でながら、幸せにとろけていた雅の思考が、ふと、見過ごしそうに小さな隙間を見付けた。長年、そういう隙間が命取りとなる場面に携わってきた賜物だ。どんなときでも、頭の隅のとても小さな場所は冷静を保っている。その小さな場所が、先ほど鷹が語ったことを、ひとつひとつ思い出す。

 八鳥野会はヨルドリ村を襲い、壊滅させた。村人の大半は炎の中に消され、生き残った者の末路はこの目で見届けてきた。ただひとり、鷹の消息を除いては。あの村で一番価値のあった存在だけが、騒動に紛れて揉み消すように誰にも知られない場所へと隠された。そして鷹は、八鳥野会が血眼で探しているチノメアに居て、そんな八鳥野会で今一番チノメアを欲している雅の元へ、のこのことやって来た。まるでこのタイミングを待っていたかのように。

「雅?」

 誰かが、どこかで、なにかを目論んで、糸を引いているとしたら。

「鷹、お前は、」

 今、雅の腕の中に鷹がいるこの状況を、誰かが待ち望み、導いていたとしたら。

「誰が、……!?」

口を開くと同時に、肩を叩かれ、二人の間、びゅぅっと入り込んだ、冷たい風。


「誰が駒鳥を殺したの?」


 一気に入り込む、騒がしい音。

「それは私、と雀が言った。」

 鷹を胸に押し付けるように強く抱きしめる。

「私の弓で、私の矢羽で。」

 どくん、どくん、騒がしく鳴る心臓を整えられないまま。

「私が殺した、駒鳥を。」

 ゆっくり、ゆっくり、顔を上げる。


「やぁ雅チャン。休日、楽しんでるみたいだね。」

 

 目の前には、いつの間にか、佐助の姿。

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