6
「わああああ。」
赤いジャージとキモロン毛は、人生で初めての遊園地へと足を踏み入れた。
「これは!死んでしまう!」
鷹の遊園地に対する第一印象は、どういう意味を含んだのか、命を落としかねない衝撃の様だ。
「死んだら乗れへんでー。」
「生きてしまう!」
「ははは、じゃあまずなに乗りたい?」
「よりどりみどり。」
入園時に貰ったパンフレットを見つめながら、鷹はジェットコースターを指す。それがどんなものか、乗ったことはないにしろよく知っている雅は、とりあえず最前列に誘導し、動き始めて数十秒で、それを後悔した。降下する前から、乗っている中で一人だけ、明らかに絶望の意味を込めた「死んでしまう」を連呼し、絶叫ポイントでは声すら出せずに、雅の腕にクッキリと痣を残して、鷹の絶叫マシーン初体験は、それが最初で最後になることを確信させて終わった。身長制限をギリギリクリアしたような小学生ですらニコニコと笑っていたのに、ジェットコースターから降りた鷹は顔面蒼白で、「ちょっと死んだ」と口から魂を抜いていた。
「僕は、ブランコが、ギリギリ。」
「あ、ほら、空飛ぶブランコがあるで。面白そうやなぁ。」
「天に召される!」
「死んだら死んだや、乗ってみよ。」
「殺害予告!僕がなにをした!」
鷹の反応があまりにも新鮮で霞んでしまうけれど、初めての遊園地は雅も同じ。顔に出さないよう心掛けても、内心高揚が止まらなかった。
絶叫系は避けて、園内の色々なアトラクションを巡る。絶叫マシーン以外は丁寧に、絶対お互い興味がないような『キュウティちゃんのドリームハウス』なんかにも入って、ピンクの風船とお花のメダルを貰った。ゴーカートでは予想通り鷹がコース外に突進し、お化け屋敷は恐怖のあまりか雅の髪を全力で引っ張って、大変なことになった。お昼を食べに行こうとしたときには、既に両手いっぱいの戦利品を抱えて、特に鷹は、チョコ型の通信機が目立たないくらいの有様となって。小指は、攣ってしまうのではないかというくらい、ずっと立ちっぱなしだった。頬を真っ赤にして、目を輝かせて、こんなことならもっと早く、可能なときは毎回連れてきてあげればよかった、と雅は少し後悔した。
そうして、本当にあっという間に時間は過ぎて、空はオレンジから、濃い群青色に変わって。
「……キモロン毛。」
「おう、あと乗ってないのは、絶叫なしにしたら、これだけや。」
「ぜ、絶叫、乗る!」
「むーりーやって。時間的にもな。ほら、行くで。」
遊園地ビギナーな雅だけれど、本やテレビなんかで見て、最後に乗るのは観覧車にしようと決めていた。鷹と見る最後の景色は、とびきり綺麗な夜景にしよう、って。きっと鷹はあまりの高さに夜景どころではなくなると思うけれど、それでも、なんでもよかった。
忘れないで、いてくれたら。
「……オムライスの、」
「?」
「忘れ、って、忘れ、ないで?」
「……。」
鷹の首は、横に振られる。ゴンドラはゆっくりと動いて、その様子を二人、ただ見つめた。
「じゃあ、なに?」
「……。」
キュウティちゃんから貰ったピンクの風船と、チョコレンジャーから貰った赤色の風船が、狭そうに身を縮めてぶつかり合う。
「わすれ、」
「忘れ?」
「た?」
「た?」
「ん。」
鷹は目線を、外から雅に移す。
「忘れ、た?」
「忘れた……って、なにを?」
「ぼくのこと。」
「……は?」
あまりにも素っ頓狂な質問に、雅の視線も、外から鷹に移る。
「忘れた、って、今一緒に居るのに、忘れるわけないやん。」
「……。」
「なんか、他の意味があるん?」
「、」
言葉を探すように黙り込むその姿に、一瞬何かがチラついて、一瞬何かを全てわかった気がして、雅は思わず少しだけ身を乗り出した。
「鷹、」
「ストーップ!」
「!」
大きな音をたてて、ゴンドラの扉が開かれる。開くと同時に伸びてきた腕が雅を掴んで、無理矢理に引きずり出された。
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