「……!」

 目を開けるとソファの上、雅の上には毛布が掛けられていて、テーブルにはサランラップがかかった晩御飯。時計を見ると、既に日付が変わっていた。

(え、俺、寝て……?)

 ソファのすぐ横では、鷹が静かな寝息をたてている。テレビが点いたままだけれど、音量は消されているから、起こさないように気を使っていくれていたのだろう。自分にかけられていた毛布を鷹にかけて、そっとソファから降りた。

(俺が、寝室以外で、しかも他人が普通に居るところで、寝るなんて。)

 信じられない。どんなに眠くても意識を手放すことが出来なかったのに。しかも、とても深く眠っていたのだろう。体がスッキリしている。こんなこと、今まで有り得なかったのに。

(鷹。)

 なんとなく、正面にしゃがんでその寝顔を見つめる。本当に、雑誌やテレビで観る子よりもずっと綺麗な顔だ。まぁでも、性格がこれでは芸能界じゃやっていけないけれど。

「、」

 眠る鷹の真横に、チョコ型の通信機。よく見ると、小さなランプが点滅している。どういうことなのだろうか。

「……。」

 悪いと思いつつも気になって、通信機を手に取った。スピーカーのようなものに耳を当てると、微かな物音が届く。

「も、……もしもし?」

『お?んんん?おやおや?』

「!」

 なんとなく話しかけてみると、すぐに返事が返ってきた。明るい感じの、少し高めな男性の声。

『おうおう!これはこれは!烏田雅様ですね!』

「!」

『ご挨拶が遅れまして、まっことに申し訳ございません。このたびは我がチノメア社のチョコをお買い上げいただき、まーこーとーに!あんがとーございまっす!』

「チノメア……!?」

『オーイエ、アイアム社長、アンダスタン?』

「社長!?」

 通信機の向こうの陽気な声。「そうだよー、すごいでしょ。」と呑気に言ってのける。けれど。

(チノメアの社長なんて、それこそ俺らがなによりも捕まえたかった存在で、でも今まで何ひとつ情報を得られなかった存在なのに。)

『いやいや、せっかく挨拶出来てうれしーんだけど、もうすぐだよね、期限。』

「え、あ、はぁ。」

『うんうん、鷹はさ、めちゃんこ大事に育ててきたチノメアの一級品でね。あはは、本当はオマケになんかしたくなかったんだけど、鷹がね、どーしてもYOUのとこに行きたいYO!って言うからさぁ。社長様としても頷かざるを得なかったっていうかさぁ。』

「え!?」

『おっといけねぇ、口が滑っちゃったお。んまぁ、とりあえずあとちょっとだけど鷹とのチノメアライフをお楽しみくださいませ。今のこと、鷹には内緒でよろすこー。んじゃ。』

「え、ちょ待っ、」

 通信機のランプが消える。スピーカーから物音はしない。通信が切れたみたいだ。

(チノメアの、社長。)

 急に現れた、特大の情報。だけれど、それよりも気になるのは。

(鷹が、俺を、知っていた?)

 鷹は、チノメアではなく、鷹個人でなにか目的があって、ここに来たのか。

(一体、なにが。)

 ちっとも心当たりはない。もう目的は果たされたのか。それともこれからか。

「……。」

 少しも起きる気配のない鷹の寝顔を見つめながら、それがどうか、悲しくないものであることを、切に願った。


 そうして二ヶ月は、あっという間に過ぎていった。

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