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家事同様、携帯も三日ほどですっかり使い慣れた。
『ごはんたべますか』
『ご飯食べません』
『なぜたべないのですか きょうはとりにくがやすかったのになー』
『飲みに付き合うからです 漢字変換してください』
『奈良僕一人出食辺升安井鶏肉』
『やっぱり漢字にしなくていいです 鶏肉たくさんお食べ』
『ひとりで』
『ごめんな、なるべく早く帰るから』
『なんびょう』
『わからん、一八〇〇〇秒くらいかな』
『いちまんはっせん!』
『もう一七九〇〇秒くらいやろ』
『すごい!あっというま!』
『な、あっという間や。大丈夫。』
『べつにまってない ばーか』
『人に馬鹿言うたらアカン 先に寝ててな』
『きもろんげ のっと ひと』
謹慎が明けて、大半は鷹を独りにしてしまう日々が続いている。携帯を買ったのは正解だった。仕事中でもなんとか、鷹の相手をしてあげられる。
「烏田、謹慎明けてからいつも携帯見てニヤニヤしてるな、オンナか。」
「ご想像にお任せしますわ。」
「謹慎中にオンナ作るなんて大層な御身分ですなぁ。」
「ホンマやねぇ。」
どんな嫌みを言われても、鷹と繋がっていることが、雅の心に逃げ道を与えた。もしかしたら、これが『家族』というものなのか。帰る場所。暖かい家。
鷹は、遅くなると言っても、先に寝てろと言っても、必ず雅の帰りを待っていた。マンションの外から自室の窓を探すと電気が点いていて、でも雅が鍵を開けると消えていて、『今起きましたけどなにか?』という顔で出迎えてくれる。まだ湯気をたてているコーヒーや温もりがしっかり残っているソファなどにツッコミを入れても、「かいきげんしょう」と言われ、雅の腕の中で、電池が切れたように眠るのだ。その鷹の寝顔が、雅の体の緊張を解いてくれた。
あっという間に、鷹との時間は、半分を過ぎていた。
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