【5 ちょこれいとのような】

「これで、俺の携帯にメッセージが届く。」

「おおお。」

「使い方、わかった?」

「うすらぼんやり。」

 鷹は小さな子供用の携帯を、まじまじと見つめる。人差し指でおどおどと画面を押して、雅宛に『あ』というメッセージを送った。

「とどいた。」

「うん、今度からはちゃんと意味のある文章を送ってな。」

「いみ。」

 斜め上を見上げながら一分ほど固まったあと、また更に一分ほどかけて、『おむらいす』というメッセージを送る。

「食べたいん?」

「おなかは、満たされてる。」

「そうか。うーん、なんやろうな、伝えたいことを送るんやで。」

「つたえたいこと。」

 再び斜め上を見上げながら、今度は『とくになし』というメッセージがきた。雅は深く溜息を吐いて、『ないときは送らなくていい』と返信する。

「きょーくんに、します。」

「いや、そこまでせんでエエけど。」

「ところで、お金はどうのような仕組みですか。」

「お金?ああ、料金のことか?」

「ハイテク機器だから、きっとお高い。」

 鷹は先日、溜まった領収書をチノメアに送って、それはそれはこっ酷く叱られたらしい。

 まぁ、どんなに寛大な会社だとしても、たった一ヶ月であそこまでの額の請求書(しかもその大半が修繕費)がきたら、怒鳴りたくなるだろう。

 雅もカードの請求書を見て、チノメアから全額振り込まれなかったら、間髪入れずに鷹を佐助に売っていただろう、と思った。

 さすがの鷹もヤバいことだと感じたらしく、以来お金のことを少し気にするようになってきた。

 まぁ、気にしたところで治るおっちょこちょいなら苦労していないのだけれど。

「携帯は、エエよ。プレゼントや。」

「え。」

「チノメアには請求せんから安心し。あ、だからってエロサイトに登録したらアカンからな。」

 チノメアからの振り込みは十分すぎる額を貰っているから、子供用携帯のひとつくらい支払ったところで雅の財布に影響はない。むしろ、これくらいしないと申し訳ないくらいだ。

「キモロン毛に、負担?」

「いや、別に負担ってほどじゃ。」

 負担、というならもっと別のところでたくさんかかってきた気がする、という言葉は、言わずに飲み込んだ。空気を読むのはお手の物だ。

「俺がそのほうが楽だから持たせるだけや。料金も大したことあらへんから、ま、気にせんで。」

「……。」

「メッセージ、送ってな。待ってるから。」

 鷹の表情が浮かないことに不安を感じたけれど、盗み見た小指はきちんと立っていたから、よかった、と胸を撫で下ろした。

 ソファに寝転がって天井を見上げると、にょきっと視界に入り込んだ鷹が、携帯のカメラで雅を撮った。

 至近距離で容赦なく焚かれたフラッシュに目をヤられていると、「スーツのほうが、いい。」と吐き捨てられて、やっぱり携帯代はチノメアに請求してやろうか、という気持ちを、精いっぱいデコピンに込めた。

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