「したら、まずは簡単なのから行こか。」

「おー。」

 なにかしらの爆発や散乱に備えて、鷹にエプロンを用意した。本当は防護マスクも欲しいところだけど、さすがにスーパーには置いていないから諦めた。あとは火災報知機の電源も落としておこう。

「ご飯の炊き方わかる?」

「ごはんのたきかた。」

「あー、米、洗って、」

「、」

「ごめん、一から教えるから洗剤とスポンジ置いてや。」

 先は長いぞ。と、雅は萎みそうなほど深く溜息を吐く。こんなところでへこたれるような自分ではない。今まで、もっとつらくてもっと不条理なことを佐助から受けてきた。錬成された未確認生物を食せと言ってこないだけ、鷹は可愛い。変な薬品を持ち込まないだけ、鷹は可愛いのだ。

「野菜を切るときは、こうな、手を切らんようにして。」

「ん。」

「油は跳ねるからな。気をつけるんよ。」

「ん。」

「卵は、力任せにやったら殻が入ってしまうから、両手で、ゆっくり、こうや。」

「ん。」

「あぁ、そんな力任せに混ぜたらアカン。ちゃんとな、空気含ませるように混ぜるんや。こう。」

「ん。」

「エエか、卵がこのくらいになったら、一気に皿に移す。」

「!」

 慎重に、丁寧に、時折デコピンをしながら、鷹の手を支えて料理を進める。思い通りにいかないし、簡単なことで躓く。けれど、不思議とイライラはしなかった。一生懸命に取り組んで応えようとしてくれる鷹が、雅の口角を自然に上げさせてくれた。

「できた。」

「んーまぁ、多少不格好やけど、味は大丈夫やろ。」

「だいじょうぶ。」

「したら、最後にケチャップで好きなこと描き。俺は鷹のに描いたる。」

 オムライス、というよりは、スクランブルエッグが乗ったケチャップライスだけれど、ようやく鷹の錬金術が発動することなく完成した料理だ。雅は鷹のオムライスに、ケチャップで『おつかれさん』と書いた。鷹はそれを見て、小指を立てながら『きもろんげ』と書いた。

「はは、オムライスでもそれかい。まぁエエわ。食べよか。」

「ん。」

 少し焦げた、決して美味しいとは呼べないオムライスを、ご飯一粒残すことなく完食して笑った、その時間を、一生忘れない、と思った。

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