5
「したら、まずは簡単なのから行こか。」
「おー。」
なにかしらの爆発や散乱に備えて、鷹にエプロンを用意した。本当は防護マスクも欲しいところだけど、さすがにスーパーには置いていないから諦めた。あとは火災報知機の電源も落としておこう。
「ご飯の炊き方わかる?」
「ごはんのたきかた。」
「あー、米、洗って、」
「、」
「ごめん、一から教えるから洗剤とスポンジ置いてや。」
先は長いぞ。と、雅は萎みそうなほど深く溜息を吐く。こんなところでへこたれるような自分ではない。今まで、もっとつらくてもっと不条理なことを佐助から受けてきた。錬成された未確認生物を食せと言ってこないだけ、鷹は可愛い。変な薬品を持ち込まないだけ、鷹は可愛いのだ。
「野菜を切るときは、こうな、手を切らんようにして。」
「ん。」
「油は跳ねるからな。気をつけるんよ。」
「ん。」
「卵は、力任せにやったら殻が入ってしまうから、両手で、ゆっくり、こうや。」
「ん。」
「あぁ、そんな力任せに混ぜたらアカン。ちゃんとな、空気含ませるように混ぜるんや。こう。」
「ん。」
「エエか、卵がこのくらいになったら、一気に皿に移す。」
「!」
慎重に、丁寧に、時折デコピンをしながら、鷹の手を支えて料理を進める。思い通りにいかないし、簡単なことで躓く。けれど、不思議とイライラはしなかった。一生懸命に取り組んで応えようとしてくれる鷹が、雅の口角を自然に上げさせてくれた。
「できた。」
「んーまぁ、多少不格好やけど、味は大丈夫やろ。」
「だいじょうぶ。」
「したら、最後にケチャップで好きなこと描き。俺は鷹のに描いたる。」
オムライス、というよりは、スクランブルエッグが乗ったケチャップライスだけれど、ようやく鷹の錬金術が発動することなく完成した料理だ。雅は鷹のオムライスに、ケチャップで『おつかれさん』と書いた。鷹はそれを見て、小指を立てながら『きもろんげ』と書いた。
「はは、オムライスでもそれかい。まぁエエわ。食べよか。」
「ん。」
少し焦げた、決して美味しいとは呼べないオムライスを、ご飯一粒残すことなく完食して笑った、その時間を、一生忘れない、と思った。
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