「なに食べたい?」

「鯛のお造り。」

「マジで言ってるならデコピンするで。」

 鷹は咄嗟に額を手で隠し、雅から距離を取って小さな声で「うそです。」と言う。この十日で鷹も学んだのだ。雅のデコピンは、痛い。

「簡単なものがエエよな。どないしようか。」

「……松茸の、」

「あー、なんやろ、右手がデコピンしたくて疼いとるわぁ。」

「よいてんき。」

 目を離した隙にどこかへ行こうとする鷹の首根っこを掴んで、カートを押させる。これで大人しくなる、と、昼間のテレビで観た。「ばかにするな。」とご立腹気味に言われたけれど、小指はしっかり立っている。この癖はとても便利だ。

「とりあえず日持ちするもの買い溜めして、適当に作るかぁ。」

「インスタントラーメン。」

「最初はそのへんのがいいのかなぁ。」

「なんでもできる、まかせろ。」

「どこからでてんねん、その自信。」

「……たぶん、頭?」

「ぶっぶー、正解は膝でしたー。」

「!?」

 今までにないほど目を見開いて、鷹は自分の膝を撫でた。なるほど。主様とやらが嘘を吹き込む理由がわかる。ここまで純粋に信じてくれる奴はなかなかいない。

「ははは!」

「?」

「オマエ、ほんまおもろいわぁ。見てて飽きない。」

「そ、それは、よいこと?」

「うん、せやな、良いこと良いこと。」

「……なら、いい。」

 自分よりずっと下で揺れる、茶髪の頭。

「よし、せや、好きなお菓子一個買ってもエエで。なんかもってこい。」

「!」

「ほれ、早くしないと締め切るでー。」

「ま、まって、待って!」

 急いで走っていく背中を見送って、雅はとても久しぶりに、心がほっこりと暖まるのを感じた。

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