(この十日でわかったことは、これくらいやろか。)

 目の前で首を傾げて立つ鷹を見つめながら、雅はひとり頷く。

「なに。」

「改めて、べっぴんさんやなって思ったんよ。」

「べっぴん。」

「美人さんや言う意味や。」

「お前は、言葉が変だ。喋り方も、似非関西弁。」

 ただでさえ不機嫌そうな顔を、一層顰めさせる。べっぴん、という面白可笑しな響きが、侮辱のように届いたのだろう。

「ははは、せやねん、似非や似非。中途半端に覚えてしもて、癖で話してるうちに標準語喋るのがなんや、気持ち悪くなってしもてな。」

「吐き気を催す?」

「そこまでやない。アレルギーか。」

「関西人?」

「いんや、同じ部屋の奴が関西人で、毎日毎日聞いてたら移ってしもうてん。」

「同じ部屋?」

「そ、少年院の、」

 ハッ、と、零れた言葉を急いで飲み込む。ついつい余計なことまで声にしてしまった。恐る恐る鷹を見るけれど、いつものように目を丸くして首を傾げているだけで、雅の言葉はあまり気にしていないようだ。

 ダメだ、やっぱり四六時中一緒に居たら、嫌でも口が滑る。それが目的かもしれない。飲まれるものか。尻尾を掴むのは、こっちのほうだ。

「せや、なんか用事あって起こしたんとちゃうん?」

 いつものようにへラッと笑って、先ほどの話を有耶無耶に誤魔化した。大した気にしていなかった鷹は、それに突っ込んでくることもなく、本来の目的を思い出す。

「洗濯、終わった。」

「おぉ、早いな、お疲れさま。」

「見てもいい。」

「はいはい、有り難く拝見させていただきます。」

 鼻の穴を膨らませながら雅を引っ張って、寝室の向かいにある洗面所へと向かう。十日前には泡を吹かされた洗濯機が、買った時のように磨かれて、その周りに乱雑としていた衣類は全て、綺麗に片されていた。タオルは顔を埋めたくなるくらいふわふわで、Yシャツはシワひとつなく真っ白だ。

「すごいなぁ、クリーニングに出したみたいやん。」

 いつものお世辞ではなく、素直にその言葉が口から出た。鷹は少しだけ頬を染めて、真っ直ぐに小指を立てる。その頭を撫でると、キッと睨み上げてきたけれど、小指は立ったままだった。

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