結局、押入れは『鷹の二階建てマイホーム(敷金礼金はにゃぱねっとが負担)』になった。鷹はそこに『最新型持ち運びが出来て布団不要な誰もが羨む高級ベッド(ほのかなチョコのかほり)』という名の寝袋を置いて、さらに『なんかの動物のめちゃめちゃ良い毛を使った絨毯』という名のバスタオル(掃除で出てきた、雅が使っていなかったもの)を敷いて、『ワイングラスとバスローブが似合いそうな雰囲気を醸し出すちょっと大人なランプ』という名のデスクランプ(掃除で以下略)を飾って、とても満足気に雅に自慢した。「せやなー、うらやましいわー。」と返しながら、(自分、保父さん向いてるんやないやろか。)と、雅は今日一日で、自分の新たな可能性を発見していた。

 鷹が十人いる世界と、佐助が一人いる世界を天秤にかけると、振り落そうと言わんばかりに揺れて、その揺れが治まることはなかった。

「とりあえず、じゃあ今日は寝よか。」

「僕の寝室、立ち入り禁止。」

「わー、それは残念やわー。」

「どうしてもって言うなら、」

「おやすみなー。」

 言葉を遮るように強く素早く押入れの、いや、鷹の寝室の引き戸を閉めて、雅は体内の空気を全て出さんばかりの長い溜息を吐いた。

(こんな日々が、あと二ヶ月。)

 これから過ごす約六十日と、それが一瞬で終わる代わりに雅の人生も終わる一瞬を天秤にかけると、「やってられへんわ!」と言わんばかりに天秤は、大きな音をたてて壊れてしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る