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「……よし、三分経ったでー。」
「……。」
ぺりぺりと蓋を外して、二人同時にカップラーメンを啜る。
この前の特売に買い溜めしておいて良かった、と一息つきながら、せっかく召使いが居てもいつもと変わらない朝食にテンションが下がる。どうせドジが来るなら、眼鏡をかけた清楚系のメイドさんを寄越してくれたらいいのに。
チノメア(仮)が雅にくれたのは、今のところ見た目以外良いとこのないダボダボ赤ジャージ(チャック全閉)の少年。ナニに使えと。
「お前、何歳やの。」
「……今年で生誕十三周年。」
「なんやその変わった答えかたは。」
十三歳。
雅は心の中でその単語を呟いた。
十三歳。
それは雅の人生で、最悪のときだった。
「?」
不器用に麺を啜りながら、鷹が首を傾げる。うっすら滲む、黄土色の目。長めのまつ毛が、ぱちぱちとまばたきに合わせて揺れる。
「ホンマ、綺麗な顔やな。」
顔は、な。と声に出さずに付け足して、ニッと笑って見せる。
常に眉間に皺が寄っている鷹と対照的に、雅は常に口角を上げて笑っていた。癖なのだ。
「きれい。」
「ん、綺麗。美人さんや。」
「変な目で見るな。」
ぷいっとそっぽを向いて、カップラーメンの汁を飲む。鷹の小指が、ぴょこっと立つ。
そういえば、佐助は小指を詰めるのを嫌っていて、自分の組の奴にも「そういう古臭いのはしなくていい。」と言っていた。おかげで雅の小指は無事手にぶらさがっている。
けど、「俺は小指落とすより、針千本飲ますほうが好きなんだよ。」と笑っていたから、いっそ詰めた方が楽なのではないか、と密やかに思っている。
「料理は出来へんみたいやけど、」
「違う、今日のは鶏の当たりが悪かっただけだ。」
「はいはいそうやなぁ。んで、他は出来るん?」
「ほか。」
「うん、洗濯とか、掃除とかな。出来へんなら、無理にしないでエエから。」
これ以上後始末が面倒なことになるのは勘弁願いたい。
朝ご飯ひとつで、スーツとジャケットがクリーニング行になった。そして、一か月頑張ってパンを食べ続けて手に入れたメッフォーちゃんの皿が、還らぬ皿となってしまった。次の春を待たなくてはいけない。あのサイズと深さのものが連続で来るとは限らないのに。
「僕はこの、ゴミの巣窟に二ヶ月暮らすなんて御免だ。蕁麻疹が出る。」
ちゅるっと最後の麺を啜って、ダンっとカップラーメンの空容器をテーブルに置く。
「今日は、掃除を、する!」
鼻の穴を膨らませて気合十分な鷹と正反対に、雅は嫌な予感に、ドッと胸を重くした。
そして。
悲しきかな、その予感は、勘の良さには定評がある雅の予感は、そういうときに限って驚異の正解率を誇るのだ。
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