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「はいはい、なんのようですかー。」
「遅い。」
ごふっ、と突然鳩尾に繰り出された一発。予想外の展開に、リアクションも取れずに呆然と立ち尽くす。え、今、俺、この少年になにされた?
「初めましてカッコご購入者様の名前カッコ閉じ様この度は我が社のチョコを御購入頂き誠に有難う御座いますカッコお辞儀カッコ閉じ私はオマケのカッコ自分の名前カッコ閉じと申しますこれから御購入頂いた特典として二ヶ月間カッコご購入者様の名前カッコ閉じ様の身の周りの世話をさせて頂きますよろしくお願い致しますカッコお辞儀カッコ閉じ。」
現状をなにも飲み込めない雅を放って、少年は淡々と機械のように話す。
弾丸のように放たれた言葉をなにも聞き取れなかったけれど、勧誘よりもタチの悪いなにかが来たのは間違いなかった。初対面で腹パンに意味不明な弾丸トークのダブルコンボ。どうあがいてもここから信頼は回復しない。
「な、え、どちらさま?」
ようやくその一言を伝える。
他にも言いたいことは山のように、星のようにあるけれど、とりあえず最優先に聞かなきゃいけないのは、これだろう。そう自分に言い聞かせて、なんとか落ち着きを取り戻そうとする。
いやぁ、今日はなんや、占い十二位なんかなぁ、あははは。それで、キミはどんな災難を運んできたのかなー?と苦笑いで見つめると、少年は着ていた赤いジャージのポケットから、くしゃくしゃの紙を取り出した。
「初めましてカッコご購入者様の名前カッコ閉じ様この度は我が社のチョコを御購入頂き誠に有難う御座いますカッコお辞儀カッコ閉じ私はオマケのカッコ、」
「そ、それはもうエエねんッ!」
「……。」
「なんの用、ですか?」
あまりの予想外の連続に、雅の口から思わず敬語が出た。兄貴以外に使うのは、何年ぶりだろうか。
「用?」
「うん、あ、えっと、なんで此処に来たのカナー、みたいな。」
「なんで?」
「そう、その、多分台詞が書かれている紙を抜きにして……あ、いや、その紙見せてもらったほうが早いんかな。」
そう言って紙に手を伸ばすと、凄い速さと勢いで避けられた。
「え。」
「企業秘密。」
「え。」
「見ちゃ、ダメ。」
ぐしゃっとポケットに突っ込んで「紙なんて、ない。」と言われる。このままだと話が進まない、と、力いっぱい溜息を吐いた。どこのどいつがどんな情報を嗅ぎ付けて送り込んできたのか。精神的ダメージは充分に与えられている。
「もうな、エエよ。誰に頼まれて来たんかな?ん?」
「だれ。」
「てか、鴨乃目しかないか。うんうん。若いのに大変やなぁ。鴨乃目にはちゃんと、失敗したわぁって伝えておくんやで?」
「かものめ……?」
少年は首を傾げて、目を閉じながら考え事を始めた。そのまま石像のようにピクリとも動くことなく、雅もなんとなく、釣られて固まる。
「……。」
そして、三分くらいの沈黙の後、「僕は、」と紙を見ずに話し始めた。
「かものめ、とかは、よくわからないんだけど。えっと、お前……、キモロン毛は、僕がここに来た理由を知りたいんだな。」
「え、キモ?」
「僕は、キモロン毛がさっき買った、チノメアチョコのオマケだ。」
「……。」
雅は視線を上げて、左を見て、右を見て、少年を見て、今時真っ赤な上下ジャージって変わってるな、と思って、最近よく聞く四文字は無視して、
「とりあえず、キモロン毛はやめぇや。」
とため息交じりに突っ込みを入れた。
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