第4話 リスタート①

 御坂さんは台所へと向かった。台所でせわしなく動いているところ、夕食を作っているのだろう。彼女の動作は素早く洗練されていた。


 一生懸命になって作る御坂さんを見ていると、手伝いたくなるが、足でまといになるだけだろう。ここは素直に待ちたい。胡坐をかきながら待っていると、ほんのりと良い香りが漂ってきた。

 彼女は、出来上がった料理をテーブルの上に置いた。野菜炒めだった。ピーマンやキャベツ、豚肉などが入っていた。


「食べてみて。お腹すいているでしょ?」


 時計をチラりと見ると、時刻は夜中の7時半だった。公園を出てから、二時間以上も経っていた。


 白い艶のあるご飯に、野菜炒めが並んでいる。僕はまだまだ育ち盛りだった。ガッツリといただくとしよう。


 気づくと、皿一杯分の野菜炒めとご飯を食べきっていた。


 ……充足感がある。ただのご飯なのに、幸せになった気分だ。


 食事を続けている御坂さんと目が合うと、彼女はニコりと笑ってきた。

 御坂さんが見せた笑みは、睨みつける表情からはわからない、いままでにない穏やかな笑みだった。思わず顔を伏せてしまい、食器を台所に運ぶ。「うれしいな。片づけてくれるんだ」との声が背中にかかる。


 振り向いて僕はこういった。「ごちそうさま!」


 洗いながら、僕は幸せ者だと思ったが、幸福な気分で満たされることはなかった。幸福になることに、罪悪感があったからだ。


***


 余談。起きたら、体のあちこちが痛かった。

 あろうことか、床の上で寝落ちしていた。けど風邪を引かなかったのには理由がある。僕の体には、毛布がかかっていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る