第35話 残念美少女、計画を練る



 タリランさんの幽閉されている建物の前で、空中から地上へ降りる。

 槍を持った見張り二人が、腰を抜かした。

  

「お、お、お前、誰だっ!」


「こんにちはー。えっ、私? 前に来ましたよ」


「いや、お前なぞ見たことないぞ。そっちの綺麗な男は、見たことあるが」


「いや、だから、この子と一緒に来たでしょうが」


「嘘をつくな!」


 ポチ(カニ)『あー、ツブテが痩せたから、誰か分からなくなってる!』


 入り口で騒いでいると、奥からゼバスチンが出てきた。


「なんの騒ぎです」


「セバスチンさん、私です」


「おや、あなたはどなたかな?」


「私ですよ、私。ツブテです」

 

「ツブテ殿? いやいや、あなたはツブテ殿ではないぞ」


「ほら、よ、よく見てくださいよ」(わ、私、そんなに太ってる!?)


 じーっと、私を見るゼバスチン。


「やっぱり、違いますな」(ツブテ殿は、もっと太っておられた)


「ほら、痩身エステ十回の替わりにこれをもらったでしょ!」


 ゴリラバッグから、赤い宝石がついたペンダントを出した。


「あっ、これは、まさしく主のもの……ということは、お変わりになったがツブテ殿か?」(めちゃ、痩せてるじゃん)


「はああ、やっと分かってもらえたわね……」(そんなに太っちゃったなんて。死にたい……)


「この度は、何のご用で?」


「タリランさんに会わせて欲しいの。大事な用件があるのよ」


「それは、無理ではありませんが……。とにかく、主にうかがってまいります」


「お願い」


 こうして私は、三度みたびタリランさんと会うことになった。


 ◇


「おお、ツブテ殿、見違えたぞ」(すごく痩せておるな)


「ぐはっ」(やっぱり、私、見まちがえられるほど太ってる!?)


「この度は、何用で王都まで来られた?」


「大事な用件です。タリランさん、皇太子でしょ? で、息子さんが王様」


「そのとおりだが」


「その馬鹿むす、ああ、問題のある息子さんが、この国一番のケーキ屋を独占しようとしているのよ!」


「そうか、それで、大事な用件とは?」


「だから~、この国一番のケーキ屋のケーキが食べられなくなるの!」


「うーむ、よく分からんが、それが大事なことなのか?」


「大事も大事、ちょー大事じゃない!」


「そ、そうなのか?」


「とにかく、ケーキをとり戻すため、私は立ちあがるわよ!」


「おおっ! 余と共に戦うてくれるのか!?」


「戦うんじゃなくて、ケーキを取り戻すの。まあ、抗議みたいな感じかな?」


「しかし、あヤツは、そなたの言葉になぞ耳をかさぬぞ」


「とにかく会わせなさい」


「余は、このような身じゃ。会わせとうても、会わせてやれぬ」


「そこを、なんとかしなさいよ! 父親なんでしょ!」


「……うむ、一つ、会うだけならできるかもしれん方法がある」


「ほらっ! やっぱり、方法があるんじゃない!」


「しかし、この方法、そちは生きて帰れぬやもしれぬぞ」


「あのケーキをとり戻すためなら、命ぐらい懸けるわよ!」


 ポチ(カニ)たち『漢だ! だけどケーキのためだから、残念!』


「そちの弟も、納得しておるのか?」


 タリランさんがドンの方を見る。

 なぜだかふくよかな頬をちょっとピンクに染めているのがキモイ。


「ボクも、ケーキ食べたいなあ」


「うむ、しょうがない。じゃが、チャンスは、ただ一度と思え。もし、このことが余の口から漏れたと分かれば、あヤツは必ず余を殺すであろう」


「大丈夫! 私、こう見えて、ちょべり口が堅いんだから」


 ポチ(カニ)たち『めっちゃ口が軽そう!』


 こうして、私はタリランさんと『奪還秘密大作戦』の計画を練った。


 ポチ(カニ)たち『『『奪還だから!』』』

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