第4部 残念〇少女、魔人と出会う

第23話 残念〇少女、新ダンジョンに挑む

 前回の失敗にりた私は、魔道具を売る店で魔力回復ポーションを仕入れてから、見つかったばかりのダンジョンへ向かった。


 ダンジョンの入り口は、森の奥深くにあった。

 大木の根が複雑に絡まり、小さな丘を形づくっているその場所に、根と根の隙間があった。

 頭を低くして隙間を潜ると、入ってすぐ、左方向に通路が見えた。そのため外から見ると、木肌の壁しか見えない。だから今まで人に見つからなかったのだろう。 

 

 グラントさんが話していた通り、ダンジョンの壁、床、天井は滑らかで、天井全体が白く光っているため、灯りは必要なかった。

 床を作っている材質は少し弾力があり、そのため靴音がしない。これは冒険者にとって不利な条件だろう。近づく魔獣の足音が聞こえないのだから。

 だが、気配が読める私には――。


 ドゴンっ


 私を背後から襲おうとした、小型のワニ型魔獣が吹っとぶ。

 ヤツは三回ほど床にバウンドすると、動かなくなった。


 掌底を叩きつけた反動を利用し、再び進行方向を向く。

 そこには、三体のワニ型魔獣がいた。

 ヤツらは、短い後ろ足で立っている。

 それをチョコチョコ動かし、一斉に襲いかかってきた。


「キモっ!」


 一番右の魔獣より少し右に位置取りする。

 残りの二匹は、私に近い魔獣が邪魔になり、こちらを攻撃できない。


「せいっ!」


 掌底が魔獣の脇腹に決まる。


「グワっ」


 そんな鳴き声を上げ、その魔獣が後ろの二匹にぶつかる。

 倒れている一匹を蹴りつけ、その動きをとめる。

 ただ一匹起きてきたヤツに、私の回しげりが襲いかかる。


「ギュワっ」


 ドンッ


 壁にぶつかった魔獣が動かなくなる。

 少し待つと、三匹は地面に溶けるように消え、後に魔石を残した。


「今ので、三百グラムは減ったかしら」


 もちろん、私が気にしているのは自分の体重だ。

 こうして、私は、ダンジョンをどんどん奥へと進むのだった。


 ◇


 ダンジョンの最下層、最も奥にある大きな部屋。

 部屋の奥、一段高くなった祭壇に安置されている棺の蓋がゆっくりと開く。

 ほっそりした手が、重そうなその石蓋を軽々押しあげると、金髪の若者が起きあがった。

 色白のその顔は、恐ろしいほど整っている。


 この施設は、かつて栄えた古代魔術王国がそのすべての技術を使い、この若者を閉じこめるためだけに造ったものだ。

 若者は、魔術王国のマッドサイエンティストが生涯をかけ創りだした、いわば魔人ともいうべき存在だった。

 暴走した若者は、生みの親である科学者を殺し、自分の力を解放した。

 魔術王国の都市ほとんどを壊滅させた若者は、ある英雄の手により、なんとかここに封印されたのだ。

 その後、魔人から漏れだした魔力は、長い時をへて、ここをダンジョンならぬ魔宮へと変えたのだ。

 

 スラリとした長身をひらめかせ、若者は棺桶の外へ降りたった。


「封印が解けたのか。しかし、どうやって」


 自分を閉じこめていた封印が、とてつもなく強力なものだと知っていたから、若者は解放されたことが、にわかに信じられなかった。

 しかし、次第に事態が頭に入ってくると、整った唇を三日月のようにして微笑んだ。

 再び、己が力を開放し、世界の全てを滅ぼす。

 彼にとって、破壊は何より甘美なものなのだ。


「ふふふふ、はははは、あははははは!」


 地下深くの部屋に、魔人の哄笑が満ちた。


 ◇


 倒した狼魔獣を、前方の通路に投げる。

 それが地面に落ちたとたん、壁から金属の槍が多数生え、魔獣を串刺しにしてしまった。


「この罠はいかんだろう、この罠は!」


 私が言っているのは、罠がぬるすぎるのだ。

 見え見えだし、たとえ引っかかっても、起動が遅いので、いくらでも避けられる。

 マサムネ兄さんの修行につきあった時なんか、おじいちゃんが仕掛けた罠が、容赦なく襲いかかってきたものだ。

 おじいちゃんの罠は、複数の罠が連動するものが多く、一つ罠を避けても安心することができなかった。


「これじゃ、罠の意味がないよねー」


 ポチ(カニ)たち『そんなの、あんただけだよっ!』


 ここに来るまで、部屋が無数にあり、そこには宝箱が置いてある部屋も多かった。

 半数ほどの宝箱にも罠が仕掛けられていたが、これも見え見えで、罠が掛かっていない宝箱だけ、中身も見ず、ゴリラバッグに突っこんである。


 次の階へと降りようとしたとき、階段の下からそれが聞こえてきた。


「ふふふふ、はははは、あははははは」

 

 誰か先にダンジョンに入っていた人がいるようね。

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