第22話 残念〇少女、再び自覚する

 鑑定の結果がショックで寝込んだ私は、一週間ほどして、ようやくマイヤーンの家を後にした。


「もう二度と来るなーっ!」


「またまたー、ツンツンしちゃって、妹よ」


 妹エルフからの温かい励ましを背に、私は『アヒル亭』がある街に向かった。

 途中、わざと道を通らず、森や原野の中を帰る。

 ダイエットがわりに魔獣を狩るのだ。

 襲う魔獣、ほふる私、屠る、屠る、屠る――


 ポチ(カニ)たち『どんだけ屠ってるの!』


 街に着いた私は、まずギルドを訪れた。


「よう、ツブテ嬢ちゃん、ここんところ姿をみなかったが、またダンジョンか?」


「グラントさん、お久しぶりです。ちょっと旅行に行ってました」


 ちょうど、入り口からヌンチが入ってくる。


「あ、ツブテさん、お帰りなさい。鑑定はどうでしたか?」


「……」


「ツブテさん、鑑定は、どうっ――」


「おい、いきなり殴っちゃ可哀そうだろう。ヌンチが白目むいてるぜ」


「ええ、それより、私がいない間に何かありませんでしたか?」


「おお、あったぞ。新しいダンジョンが見つかった」


「へえ、どんなダンジョンです?」


「それがな、ギルドからの依頼で俺たちが第一層を調べたんだが、モンスターは強いわ、罠だらけだわで、今のところ、攻略は禁止ってことになってる」


「禁止ですか」


「ああ、もう少し調査が進めば、上級冒険者に解放されるだろうな」


「そうですか。やっぱり、洞窟型のダンジョンですか?」


「ああ、そうだ。ただ、おかしなことに、壁とか人が造ったみてえで、つるりと綺麗なんだ。しかも、天井が光ってる」


「へえ、変わってますね」


「ああ、ちょっと耳を貸しな」


 グラントさんが、小声でささやく。


「――もしかすると、古代魔術王国の遺跡かもしれねえ」


「どうしてそう考えたんです?」


 私も声を低くして尋ねた。


「それがな、こんなのが落ちてたんだ」


 グラントさんが、そっと私の手に何かを握らせる。

 指の間から見えるそれは、銅貨のように見えた。

 現在使われているものより、一回り大きい。

 テーブルの下から、それをグラントさんに返した。


「そうですね。そのダンジョンは、きっと古代魔術王国の遺跡だと思います」


「ほう、嬢ちゃんもそう思うかい。だけど、迷い人のあんたが、なんでそう思ったんだ」


「えっ? ははは、勘ですよ、勘」


「そうか、だけど今度は、前みてえに一人でダンジョンに突っこむなよ」


「もちろんです」


 新しく見つかったダンジョンを古代魔術王国がらみのものだと考えたのには、ちゃんとした理由がある。

 妹属性エルフ、マイヤーンにダンジョンの宝箱から出た金貨を鑑定してもらったら、それが古代魔法王国のものだったのだ。

 そして、さっき私が見た銅貨には、その金貨と同じ模様が刻まれていた。


 ◇


 ギルドを後にした私は、懐かしい『アヒル亭』の扉を潜った。


「ただいまー」


「おや、ツブテちゃん、やっと帰ってきたのかい」


「おかみさん、今日からまた宿泊お願いします」


「ああ、もちろんいいよ。あんたがもっと早く帰ってくるって言ってたから、部屋はそのままにしてあるんだよ」


「えっ? それはご迷惑おかけしました」


「気にしなくていいよ。それから、会わせたいのがいるんだよ」


「はい、誰でしょう」


「おーい、アレク、降りといでー」


 おかみさんが、二階へ声を掛ける。

 階段を降りてきたのは、青いローブを着た少年だった。

 おそらく私と同い年くらいだろう。

 やや小柄で眼鏡を掛けた彼は、真面目そうな印象だった。

 眼鏡っ子、キターっ!


「初めまして、アレクといいます。この宿の息子です。タルス魔術学園の生徒です。ツブテさんですよね。お噂は、かねがねうかがっています」


 少年は、礼儀正しく挨拶した。


「ハリー君、初めまして、ツブテです。おかみさんには、とてもお世話になっています」


「ハリー?」


 少年が首を傾げる。


「ああ、そうだ。アレク、あんた、服屋のレンさんとこへ届けもんがあるんだろう。ツブテちゃんと一緒に行っといで。この子は、ちょっと頼りないところがあるからね。帰ってきてすぐで悪いけど、ツブテちゃん、頼めるかい?」


「ええ、いいですよ」


「ツブテさん、ありがとう」


 アレク少年は、深く頭を下げた。


 ◇


「ツブテさん、助かります」


「なるほど、これは、二人いた方がいいね」


 アレクと二人で、かなり大きな荷物を服屋まで運んでいる。

 重さはそれほどないが、布で覆われた長い形のそれは、一人では運びにくいだろう。

 看板でも入ってるのかしら。

 私たちは、やっと服屋に着いた。


「こんにちはー」


「あ、アレク君、お帰り。それって、頼んでいたもの?」


「はい、レンさん。なかなかうまく作れなくて、少し重くなりましたが、普段は持ち運ぶものでもないですから」


「苦労かけるわね。見せてもらっていいかしら?」


「はい、今、これをほどきますね」


 アレクは、長い長方形の荷物に被せていた布を外した。

 中から出てきたのは、全身サイズの鏡だった。


「まあっ! すばらしいできね。大きさも申し分ないわ」


 服屋のレンさんは、凄く感心している。


「このサイズの鏡は、王都にしかないですからね」


 アレク少年が胸を張る。


「ああ、ツブテさん、せっかく来たんだから、モデルになってよ」


「ええ、まあ、いいですけど」


「買わなくてもいいからね。そうね、ツブテさんのイメージなら、この服かしら」


 レンさんは、フリルがたくさん付いたピンク色のドレスを手に取る。


「えっ、これですか~」


「ほら、イヤそうな声出さないの。買わなくてもいいんだから」


 アレクが支える鏡に、私の全身が映る。


「いいわね~、全身が映ると、お客さんへの説得力が違うわ」


 レンさんがそんなことを言ってるが、私の視線は鏡にくぎ付けになった。  

 

 誰、コレ?

 そこには、前にも増して太った少女が映っていた。

 な、なんで、こんなことに!


 そういえば、妹エルフに看病されていたとき、やれもっと料理を持ってこいだの、デザートを出せだの言っちゃったっけ。

 またしてもやっちまった……。


「あ、ツブテさん、どうしたの? まだ、合わせたい服が――」

「ツブテさん――」


 レンさんとアレクの声を背に、私は店を飛びだした。

 このままではヤバイ!


「ダイエット、ダイエット、ダイエットーっ!」


 叫びながら走る私に通行人の足が停まる。


「ひいっ!」

「な、なんだっ!」

「なんか、丸っこいものが、凄い勢いで駆けぬけたぞ」

豚魔獣オークの子供か?」


 その勢いのままギルドに突入した私は、グラントさんの胸倉をつかみ、その首をガックンガックンさせた。彼が新ダンジョンの場所を口にするまで。


――――――――――――――――

ツブテ「残念〇少女の〇には、丸っこいという意味があったのか……」

作者「やっと分かったようだな」

ツブテ「次で元に戻しなさいよ」

作者「痩せたらな」

ツブテ「ぐはっ!」

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