第24話 残念〇少女、魔人と出会う

「ふふふふ、はははは、あははははは」


 笑い声は続いている。

 どうやら、通路の奥に誰かいるらしい。

 声に導かれた私は、天井の灯りに照らされた通路を奥へ奥へと進んだ。 

 

 この階は、それまでと違い通路脇に部屋がない。

 まっ直ぐ伸びた通路の行きどまりに、大きな扉があった。

 両開きの扉には、取っ手が二つ付いている。

 それを握り、手前へ引いた。

 しかし、扉はびくともしない。

 笑い声は、この部屋の中から聞こえる。

 声を掛けてみることにした。


 コンコン


「誰か入ってますか~?」


 ポチ(カニ)たち『おトイレかいっ!』

  

「おや、さっそく一人目の獲物が来たようだな」


 扉の向こうから、そんな声が聞こえてくる。

 その扉が内側へ、ぎぎぎぎとゆっくり開いていく。

 薄暗い室内にいたのは、スラリとした金髪の若者だった。


「こんにちはー」


「ふふふ、お前は誰だ?」


 若者は、いきなり私に話しかけてきた。


「人に会ったら、挨拶しろよ」


 私の言葉に、彼は戸惑っているようだ。


「えっ? そうなの? こ、こんにちは」


 ぎこちないわね。まるで生まれて初めて挨拶したみたい。  


「それから、名前を尋ねるなら自分から名乗れ」


「えっ? そうなの? 私は最終兵器ドドンパだ」


 若者は片手を胸に当て、もう片方の手でV字を作ると、それを右目に当てた。


「げっ! あんた中二病か?」


「えっ? 私は病気にかかってるのか?」


「ああ、しかもその黒いロングコート、赤いシャツ、これはもう終わってるな」


「お、終わってる?」


「ああ、もう救いようがないってことだよ」


「えっ!? ボク、死んじゃうの?」


「まあ、死んだほうがいいな」


「せっかく自由になれたばかりなのに、病気で死んじゃうなんてひどいよ!」


「残念だが、その病に治療法はないのだよ」


「そ、そんなあ」


 ドドンパは、両手両膝を床に着いた。


「だが、まあ、絶対に回復不可能というわけでもないぞ」


「えっ? どうやるの? 教えてっ!」


「かくいう私もだな、その病にかかったことがあるのだ」


 ポチ(カニ)たち『やっぱり!』


「ほ、本当!? ねえ、どうやって治したの?」


「うぬ、それは一口では言えぬな」


「教えてくれなきゃ、ボク死んじゃうっ!」


「安心しろ。その病にかかっても、すぐに死にはせん。ただ、じわじわと痛いことが増えてくるのだ」


「えっ!? 痛いの? ボクやだなあ」


「さっきのお前のポーズ、あれもかなり痛かったぞ」


「そ、そうなの? 夢中で痛みに気づかなかったよ」


「そんなこともある」


「お姉ちゃん、何ていう名前?」


「私か? 私はツブテだ」


 私は膝を少し曲げると、身体を斜めにしドドンパを指さした。


 ポチ(カニ)たち『中二病治ってないやん! いや、むしろ、ジョ〇ョ!』


「お姉ちゃん、ボクの病気を治してくれる?」


「いいだろう。経験者として、いろいろアドバイスしてやろう」


「ありがとう!」


「しかし、ドドンパは呼びにくい。お前は、今この時からドンだ。壁ドンのドンだ」


 ポチ(カニ)たち『なんて可哀そうな子!』

 

「わーい、嬉しいなあ。お姉ちゃん、よろしくね」


「おう、任せとけ」


 私は自分の胸をドンと叩いた。


 ポチ(カニ)たち『漢だっ!』


 こうして、私はドンと知りあった。


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