第21話 残念〇少女、絶望する



 緑髪のエルフ少女マイヤーンは、私を六畳ほどの部屋に案内した。

 壁際の棚に何かの結晶が並んでおり、それの反射する光で部屋は虹色に彩られている。


「このベッドに横になってくれ」


「マイヤーンちゃん、お姉ちゃんといっしょに寝たいの?」


「誰が寝るかっ! さっさと横にならんか!」


「もう、この妹はテレ屋さんなんだからぁ」


「黙っとれ! 鑑定が上手くいかんぞっ!」


 マイヤーンが、私の聞いたことがない言語で呪文の詠唱に入った。

 おそらくエルフ語だろうその詠唱は、五分ほども続いた。


 突然、横たわる私の上に白く輝く魔法陣が現われる。

 魔法陣の中央には、何列かの文字が浮かんでいる。

 マイヤーンはそれを読み、メモを取っていた。

 やがて、魔法陣がすっと消えた。


「確かに、魔闘士レベル2になっておるな。これは、かなりすごいことじゃぞ。レベル1の呪文は知っておったな、『あたしが欲しいのね♡』じゃ。レベル2の呪文は、『え~、そんな~、あたし困りますぅ~♡』じゃ」


「えっ? レベル2の呪文をもう一度」


「だから、『え~、そんな~、あたし困りますぅ~♡』じゃ」


 こいつ、私をナメてるのか?

 妹のくせに。


「ほれ、口に出してみい」


「……『えー、そんなー、あたし困りますー』 あれ? なにも起こらないよ?」


「かーっ、なんじゃその呪文は? 教えたのと全く違うではないか」


「でも、呪文は、『えー、そんなー、あたし困りますー』でいいんでしょ?」


「よく聞かんか! 正しい呪文は、『え~、そんな~、あたし困りますぅ~♡』じゃ」


「え~、そんな~、あたし困ります~……。やっぱり何も起きないんだけど」


「だから、よく聞けっ! 呪文の最後が違うであろうが。『え~、そんな~、あたし困りますぅ~♡』 最後の所、『す~』じゃのうて『すぅ~♡』じゃ」


「え~、そんな~、あたし困りますぅ~」


 やはり、なにも起きない。


「ええい、最後に♡を付けんか、♡を!」


「え~、そんな~、あたし困りますぅ~♡」


 私の身体が青く光る。

 青い光は、レベル1の時より少しだけ強いように思えた。


「これ、どんな能力なんです」


「身体強化じゃ」


「……ええっと、レベル1の魔術が身体強化だったんですが」


「じゃから、身体強化レベル2じゃ」


「……せ、せめて、他に何かスキルはないの?」


「いや、レベル2で手に入れたものは、それだけじゃぞ」


 ショックでベッドから床にころげ落ちた私は、「_| ̄|○」の姿勢、いや、「_| ̄|Q」の姿勢をとった。


「まあ、よかったではないか。お前は、歴史上二人目の魔闘士レベル2じゃ」


 かつて、ヌンチから聞いた魔闘士モウ・イヤン最期の言葉が蘇る。


『もしあなたが魔闘士に覚醒したなら――諦めなさい』 


 私は、どこまでも深い絶望に囚われた。

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