第3部 残念〇少女、エルフと出会う
第20話 残念〇少女、美少女エルフと出会う
ギルマスのトリーシュさんから特別な鑑定スキルを持つ人物を紹介された私は、街から歩いて二日ほどの距離にある、山間の村に来ている。
相手と話すのに多言語理解の指輪が必要かもしれないから、用意してきた。
魔道具屋で買ったのだが、なんと金貨二枚、日本円にして二百万円もした。
幸い今まで溜めていたお金に、猿のダンジョンで取った魔石を売ったお金を合わせると、何とか予算内に収まった。
しかし、そのせいで手持ちのお金が金貨一枚と銀貨十枚ほどになってしまった。
これで鑑定代に足りるだろうか?
宿泊費も掛るわけだから、お金は節約しないといけないわね。
トリーシュさんに書いてもらった地図だと、鑑定家の家はこの辺りだと思うけど。
左手に広がる美しい湖を眺めながら、木立の中を縫う道を歩いていった。
◇
「こんにちわー! 誰かいませんか?」
私が訪ねたのは、大きなログハウスだった。
湖のほとりに立つそこからは、湖とそれを取りまく森が見える。
空に浮かぶ白い雲が水面に映り、飛びたつ水鳥が引く波紋が美しい模様を描いていた。
「
彫刻で飾られた分厚い木の扉がわずかだけ開くと、その口調とは全くイメージが違う女性が顔を出した。
緑の髪を両耳の後ろで二つに束ねた少女は、中学生くらいの年齢に見えた。大きな目、翡翠の瞳、小ぶりな鼻と口、細っそりした手足、可愛らしさを絵にかいたような姿だ。
それは、妹が欲しかった私のお姉ちゃん心をくすぐった。
そして、彼女の耳は長く、美しい髪から突きだしていた。
これって、エルフ?
あのエルフじゃね?
「あの、お父様はいる?」
「お父様じゃと?」
「ええ、そうよ。鑑定家のマイヤーンさんに会いたいの」
「マイヤーンは私じゃが」
「えっ!? お父さんの名前もマイヤーン?」
「いや、違うぞ。私が鑑定を
「ええっ! 妹エルフが鑑定家!?」
「私には、姉などおらぬが……」
「とにかく私を鑑定して欲しいのよ、我が妹っ!」
「わ、私はお前の妹などではないぞっ!」
「そんな小さなことは気にしなくていいのよ、マイシスター」
「じゃから、妹ではないと言うておるじゃろっ!」
「ぐふふふっ、怒った顔もかわゆいのう」
「き、気持ち悪いやつじゃ! 今日のところはひとまず帰ってくれ!」
「遠くから来た姉に、なんていう仕打ちかしら! いいのかな、そんなことして」
「な、なんじゃと!」
「村の人たちに言っちゃおうかな。私は残虐非道な妹にいたぶられ続けた、哀れな姉だって」
「い、いたぶられっ!?」
「では、さようなら。さあ、どんな風にいたぶられたって言いふらそうかしら」
「待て、待ってくれ! しょうがない。話だけは聞いてやろう」
こうして、私は、いもう……いや、鑑定家マイヤーンの家に招きいれられた。
ポチ(カニ)たち『招かれてなんかないから!』
◇
ロッジの中は、その外見からは想像つかないほど、美しい飾りつけがなされていた。
しかも、それが派手ではない。
壁や天井が彫刻で飾られた部屋には、品がいい置物や絵画、壺の類が並べられていた。
「まあ、素敵なお部屋ね! お姉ちゃん、嬉しいわ」
「だれがお姉ちゃん!?」
マイヤーンは、湖を眺められるよう置かれたソファーに私を座らせると、アイランド型のキッチンに立った。
「エプロン! エルフ妹エプロン、キタコレーっ!」
「なっ、なんなのこの人っ!?」
時々、ビクビクと震えながら、こちらを優しい目で見てくる妹は、とても可愛かった。
ポチ(カニ)たち『優しい目じゃなくて、怯えた目だから!』
やがて、テーブルの上にお茶とケーキが二つずつ置かれた。
私は電光石火の早業でゴリラバッグから布を取りだし、それでケーキを隠した。
「なんでそんなことを? というか、私も食べられないんじゃが?」
妹が抗議しているが、私は聞きいれない。
ダイエット中の姉は、妹を甘やかさないのだ。
「禁断の食べ物は、こうせぬと呪いが降りかかるのだ」
理由をつけてケーキは封印と。
お茶は独特の香りと風味があり、なぜか懐かしい感じがした。そして素晴らしく美味しい。
「美味しいわねー、これ!」
「私の故郷、エルファリアという世界のお茶じゃ」
「エルファリア?」
「そうよ、エルフが住む世界じゃ」
妹エルフたちが住む世界!
「ぐふふふっ、いつか行ってみたいわね~、じゅるり」
「頼むからやめてくれ! 種族ごと滅びそうだ。それより、何を鑑定したいのじゃ?」
おおっ、妹エルフの「のじゃ」来たーっ!
ポチ(カニ)たち『やっぱり、この人、残念!』
◇
「鑑定して欲しいのは、ダンジョンで手に入れたお宝と私のスキルだよ」
「……お宝は分かるが、なんでスキルを鑑定する必要がある?
市販のスキルブックを買えば、その辺は分かるじゃろうに」
「私のスキルは、スキルブックに載ってなかったの」
「ほう! レア職か? じゃが最新のスキルブックには、簡単ながら聖女や勇者のスキルまで載っておるぞ」
「私の職業は、魔闘士なの」
「マトウシ? 聞いた事ないのう」
「記憶の引きだしをよく探してごらん。きっと小さなカケラが見つかるわ」
「……見つからんのう」
「ぐっ、しょうがないわね……『残念職』よ」
「おお、それなら知っておるぞ!」
「さ、さいですか」
「なるほどのう。確かに残念職ならスキルの事は分からんじゃろう。だが、確かレベル1のスキルは身体強化だけのはずじゃが?」
「それはそうなんだけど……体が光ったのよ」
「体が光る?」
「ダンジョンで、プチっとしたら体が光ったの」
お猿のタマタ〇をつぶしたらレベルアップしたなんて、恥ずかしくて言えないよ。
「ふむ、『プチっ』が何か知らんが、確かに高位の術者はレベルアップ時に体が光ることがあるのう」
「だから、私の魔闘士スキルがレベルアップしているかどうか、そして、レベルアップしているなら、どんなスキルが手に入ったか知りたいの」
「ふむ、なるほどのお。しかし、私の鑑定料は高いぞ。お前にそれが払えるのか?」
「い、いくら?」
「そうじゃなあ、『残念職』はレア職じゃから、手が込んだ鑑定が必要じゃ。金貨三枚も、もらおうか」
「さ、三百万円っ!」
「なんじゃ、それは? で、どうじゃ? 払えるのか?」
「金貨一枚しかありませんっ!」
「そんなことで胸を張られても困るのじゃ。では、今回はお引きとりねがおうか」
「マイヤーン、我が妹よ。お姉ちゃん、何でもするから」
「しかし、金が足りんのではな」
「お姉ちゃん、何でもする。薪割りでも、水くみでも、薪割りでも、水くみでも、薪割りでも、水くみ――」
「ええーい、鬱陶しいわっ! それに、できることは薪割りと水くみだけのようじゃな」
「りょ、料理もできるもん!」
「何ができるんじゃ?」
「黒焦げ肉とか、黒焦げ魚とか、黒焦げ野菜とか――」
「食えるかッ!」
「それに季節の新鮮な愛情を添えて」
「添えても食べられないからっ! それに、季節の愛情とは何じゃ?」
「妹に対する姉の愛、ぐふふふ」
「こ、怖ひ!」
「分かってくれたの? お姉ちゃん、妹のあなたをそれはもう怖いくらいに愛してるの」
「……だめじゃ、こやつ、すでに壊れておるわ」
「足りない分を返せるまで、毎日愛を注ぐわ」
「ぞくぅ~っ、鳥肌ががが。もうよい! 鑑定はするから、それが終わればすぐ帰ってくれ⁉」
「でも、お金が足りないよ。その分、愛情で補わないと、ぐふふ」
「いや、もういい。金貨一枚でいいからっ!」
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