残念美少女ツブテ異世界をゆく

第２部 残念〇少女、ダンジョンへ

第１６話 残念〇少女 ダンジョンに挑む

「ツブテさん、もうそろそろ帰りませんか？」

　嫌がるヌンチを無理やりガイド役にし、私は最寄りのダンジョンに潜っている。

「灯りを消すな！　消えたらお前も消すぞ」

「そ、それって冗談になってませんよ！」

　ヌンチは、杖の先に魔術で光の玉を作っている。　

　幅、高さともに五メートルほどの通路に二人の声が響く。

　朝方ダンジョンに入ってから、すでに三時間ほど。

　その間、コウモリ型やネズミ型の弱いモンスターしか出てきていない。

　ああ、モンスターと言うのは、ダンジョンで出る魔獣のことだ。

　モンスターを倒すと、死体は地面に溶けるように消えてしまう。

　そのあとに魔石が残る。

　小型のモンスターからは、質の悪い魔石しか取れない。

「ちょっと休憩しよう」

　モンスターがいない部屋を見つけたので、ちょっと一休みだ。

　明りをカンテラに代え、魔道具で火をおこす。これは魔石が燃料だから、ダンジョンで使っても安全なのだそうだ。

　床に毛皮を敷き、そこに座り持ってきた果物を食べる。

　リンゴのような外見で、中身はバナナのような味と食感という不思議な果物だった。

　◇

　何かの気配で、はっと目覚める。

　不覚にも眠ってしまったらしい。

　上半身を起こすと、灯りの魔道具に照らされたヌンチの顔が見える。彼も寝ているようだ。

　気配は部屋の入口から感じられる。灯りの魔道具をそちらへ向けてみた。

　そこには、サルのような魔獣がいた。身長七、八十センチで目と耳が大きく、尻尾が短い。

　そいつの手には、ポチ（カニ）たちが入った私のポーチがぶら下がっていた。

　そういえば、猿はカニが好物だと聞いたことがある。

「ポチーっ、いや、ポーチ！」

　私は猿に跳びかかった。

　猿は、へっという表情でスルリと私をかわす。

　ヤツは右の通路へ姿を消した。

　逃すかっ！

　追いかけはじめたが、灯りの魔道具は揺らすと消えてしまう。

「くそっ！　ポ（－）チがっ！」

　そのとき、いいことを思いついた。

「あたしが欲しいのね♡」

　魔闘士の呪文で、自分の体がぱっと青く輝きはじめる。

　やった！　これなら灯りの代わりになるぞ。

　猿の後を追い、迷わず右の通路へ駆けこんだ。

　◇

「待てーっ！」

　グシャッ

　猿モンスターを追いかける私の前に、横から狼モンスターが飛びだし、それを前蹴りで吹っとばす。

「待てーっ！」

　猿モンスターは追いかける私をあざ笑うかのように、ダンジョンの奥へ奥へと入っていく。

　グシャッ

　ボコッ

　ドベッ

　邪魔するモンスターをことごとくぶっ倒しながら、猿ヤロウを追いかける。

　ヤツは下へと続く階段を降りていく。

　こうして私と猿との追いかけっこは、その舞台をダンジョンの下へ下へと移しながら続いた。

　途中、体から出る青い光が消えるたび、「あたしが欲しいのね♡」という呪文を唱える。

　そして、ついに大きな部屋に猿を追いつめた。　

　◇

「ケケケケっ」

　追いつめられたと気どったのか、ふり向いた猿がそんな声を上げ、ポーチから白い布を取りだした。

「お、お前、どうやってそれをっ！？」

　私は愕然とした。

　それは私のブラだった。

　なぜ、そんなところにそんなものが、って？

　体形が少しふくよかになったせいで、ブラを着けたまま自由な動きが取りづらくなっていたのだ。

　だから討伐中は外しているのだが、万が一マサムネ兄さんと会った時のため、ポーチに入れておいたのだ。

　猿はそれを高くつまみ上げると、小さな胸カップの先端を指でツンツンつつく。

「ケッ」

　馬鹿にしたような顔と声に、私はプッツンした。

「おおおおーっ！」

　猿に突進する。

　私の勢いに、猿が一瞬虚を突かれる。

　バチン

　私の掌底が猿の顔をまともに捉えた。

　猿は水切り石のように数度バウンドすると、奥の壁にぐしゃっとぶつかった。

　猿が落としたブラをポーチの隠しにしまい、ポチ(カニ）たちの無事を確認する。

　どうやら誰も食べられていないようだ。