第15話 残念〇少女 修行する
貴族の屋敷で、私は鏡に映った見知らぬ少女の全裸姿を目にしていた。
彼女は黒髪の少女で、顔立ちはそれほど悪くない。
ただ、太っているのだ。
二の腕が、ぷっよぷよ。
太ももが、ぷっよぷよ。
何よりおなかが、ぷっよぷよ。
ついでにほっぺも、ぷっよぷよ。
ふくよかなのに、胸だけが小さいのがよけいに哀れをさそう。
もう一度、背後を振りかえる。
やはり、後ろには誰もいない。
この鏡ってあれか、霊が映るってヤツか。
なんか、背筋がゾクゾクするぞ。
あれ?
私が動くと、鏡の中にいる少女も動いている。
右手を挙げてみよう。
あれ?
やっぱり、太った少女が左手を挙げている。
あっ、この少女、あたしと同じ所にホクロがあるね。
おヘソのちょっと上に。
えっ!?
ええっ!?
えええっ!?
「えええええええーっ! これって私ーっ!?」
◇
「ツブテ様、朝食のご用意ができました」
翌朝、メイドがそう声を掛けに来た時、私は腕立てふせの最中だった。
「朝食? それどころじゃないのっ! 四千九百五十、四千九百五十一、……」
「ひっ!」
メイドは鬼気迫る私の腕立てを目にし、悲鳴を上げるとそそくさと部屋を立ちさる。
しばらくして、セバスチンが入ってきた。
「ツブテ様、今日のご予定は?」
「予定? それどころじゃないのっ! 千百十一、千百十二、……」
「ひっ!」
セバスチンは鬼気迫る私の腹筋運動を見ると、悲鳴を上げた。
決めていた回数までの準備運動を終えた私は、腰を抜かしたセバスチンに叫ぶ。
「馬車での送りは必要ないから! では、さようなら~」
◇
「ふう~、やっと着いたぜ」
王都から三日間走り続け、やっと『アヒル亭』がある町まで帰ってきた。
途中、寝ながら走っていたこともあったが、まあそれはいいだろう。
ギルドの前まで来た私は、腰につけたヒモをほどいた。
ヒモには数匹の魔獣がくくりつけられている。帰ってくる途中で襲ってきた魔獣を倒し、それをタイヤ代わりに引っぱったのだ。
魔獣を引きずりながら走る私を見て、すれ違った人々が感動から座りこんでいたのは、いい思い出だ。
ポチ(カニ)『その人たち、腰抜かしてる……』
ギルドの裏にある倉庫に魔獣を持っていく。
顔に斜めの傷、右目に黒い眼帯、左足に義足という小柄なおじさんが出てきた。
何かカッコいいわね。
ポチ(カニ)たち『『『ツブテ、中二病!?』』』
「嬢ちゃん、ツブテちゃんだろ? トマイテの野郎をぶっ飛ばしてくれたんだってな! それを聞いて、おじちゃん胸がすっとしたぜ」
あのキザ
「え、ええ、そうです」
「それ、ギルドが買いとっていいのかい?」
おじさんが、私の放りだした魔獣(だったもの)を指さす。
「ええ、お願いします」
ブラック・ジャッ〇さんは、魔獣を調べていた。
「おいおい、金ランクの魔獣まで混ざってるじゃねえか。だけど、こりゃ肉と皮はボロボロで使えねえな。なんだってこんなことになってんだ? 買取としては、骨や牙、魔石だけになるけどいいかい?」
「ええ、それだけで十分です」
「なるべくいい査定してやるからな。二三日待ってくんな」
「ありがとうございます」
「しかし、嬢ちゃん、これだけ魔獣を狩ってくるってこたあ、稼ぎたい事情でもあるのかい?」
「ええ、修行を兼ねて、なるべくたくさん魔獣を倒そうかと思っています」
カロリー消費量なら、練習より実戦の方がきっと高いはずだもんね。
「そうか、討伐にそこまで真剣な冒険者は久しぶりだな。そうだ、なんならダンジョンやらねえか? あそこなら魔獣の数も多いぞ」
「ええと、ダンジョンって確か洞窟みたいなところですよね」
「ああ、いろんなタイプがあるんだが、ここから一番近いのは洞窟タイプだな」
「魔獣の数が多いなら、そこへ行ってみます。ブラック・ジャッ〇さん、ありがとう」
「いや、ワシの名前はピ〇コじゃが」
「アッチョンブリ〇!」
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