第2章 残念〇少女、ダイエットする

第1部 残念〇少女、王都へ 

第14話 残念〇少女 招待される 



 タ〇痛え、じゃなかった、トマイテに襲われてから一週間ほどは、街を散策したり、ケーキを食べたり、買い物したり、ケーキを食べたり、そして、お茶しながらケーキを食べたりして過ごした。


 タ〇痛え、じゃなかった、トマイテたち十人は、意外にお金を持っていたから、それを巻きあげ、彼らの武器や服も全部売り払ってお金に代えた。

 下着だけになった彼らが、その後どうなったか私は知らない。

 そんなある日、『アヒル亭』を一人の男が訪れた。


 ◇


「こんにちは。私、あるお方に仕えるゼバスチンと申します。こちらにツブテさんという方はおられますかな?」


 食後のケーキを頬張っていた私は、それに答えた。


「ふふふぇふぁら、ふぁらふぃふぇふ」(ツブテなら私です)


 ポチ(カニ)たち『どんだけ口に詰めこんでるの!』


「おお、あなたがツブテさんですか!」 


 ポチ(カニ)たち『あんたも、よう理解わかったなっ!』


「実は、私がお仕えする方が、ぜひツブテ様にお屋敷までおいでいただきたいとのこと。馬車も用意してあります。どうか、おいでくださいませんか?」


「ふぃふぃふぇふぅふぉ」(いいですよ)


 感じのいいおじさんに頭を下げられては断れない。

 だって、イケメンなんだもん。


 ポチ(カニ)たち『この人、メンクイか!』 


「おや、何か声がしたような……気のせいですか。承諾していただき、感謝いたします」


「ふぉふぃふぃふぇふー」(お気にせず)


 こうして、私はセバスチンさんに案内され、お出かけすることになった。

 しかし、なんでセバスチン?

 執事は、セバスチャンでしょ。

 チンは感心しないよね、チンは。


 ポチ(カニ)たち『ツブテってやっぱり残念!』


 ツブテ「なんで?」


 ポチ(カニ)たち『こっちの声が聞こえとるんかい!?』

 

 ◇


 セバスチンが御者台に座った馬は私を乗せた客車をひき、かなりな距離を走った。

 街を出て荒野を抜け、再び街に入った。この街はとても大きく、路面も石畳で舗装されている。


「王都キンベラでございます」

 

 セバスチンが教えてくれる。

 そういえば、確か国の名前もキンベラだったね。

 たくさんの人が着飾って町を歩いている。歴史好きのマサムネ兄さんが見たなら、地球のどの時代、どの街に似ているか教えてくれただろうに。

 自動車なんかの機械が全く見られないから、中世ヨーロッパに似ているのかもしれないわね。


 やがて馬車は、大きな門を潜った。

 門からさらに二十分ほど走り、やっと大きな屋敷の前で停まる。

 屋敷は赤っぽい石造りで、二階建てのもの凄く立派なものだった。建物の一階部分だけなら高校の校舎と同じくらい建坪がありそうだ。


 御者台から降りたセバスチンが、客車から降りやすいよう足元に台を置いてくれる。

 私はそれを踏んで降りる。セバスチンは、うやうやしく私の手を取ってくれた。

 そう、私はお姫様。レイチェル姫よ。


 ポチ(カニ)たち『それはナイナイ』  


 ◇


 セバスチンに連れられ、ふかふかの絨毯や美しい絵画で飾られた、豪華な廊下を歩き、やがて目の前に大きな扉が現れた。

 セバスチンが何か呪文らしきものを口にすると、音もなく扉が向こうへ開いていく。

 部屋はとても広く、高校の教室を二つ並べたほどだった。

 その縦長の部屋に馬鹿でかい長テーブルがあり、手前の端に座らされる。

 セバスチンは、奥の壁際に立った。

 

 部屋の奥にある扉が一瞬光ると、両開きのそれがこちらへ開く。

 現れたのは、でっぷりした初老の男だった。

 整えられた口髭とあごひげが印象的だ。

 やけに飾りがたくさんついた、豪華な服を着ている。


「セバスチン、彼女をこちらへ」


 初老の男は私の向かいの席に腰を降ろすと、彼から見て左側の席を指さした。

 セバスチンは私を立たせ、その席までエスコートする。

 私が席に着くと、初老の男が話しかけてきた。


「そなた、名は何という?」


「おじさん、人の名前を聞きたいなら、まず自分から名乗りな」


 私の後ろで、セバスチンが動揺する気配がした。


「ははは、これはすまん。市井の慣習にうとくてな。ワシはタリランと申す。よろしくな、ええと……」


「ツブテです」


「よろしくな、ツブテ殿。まずは食事を楽しもうではないか」


 なんか残念な名前のタリランさんが、セバスチンの方に手を振った。

 セバスチンが、小さなガラス器をチリンと鳴らすと、メイドっぽい格好をした女性が数人、ワゴンを押して部屋に入ってくる。

 テーブルの上にずらりと料理が並んだ。

 

「では、遠慮せず召しあがれ」


「えっ、いいの? じゃ、いただきます!」


 料理は、すごく美味しかった。

 どれも私が食べたことのないもので、とても手間をかけて作られていると感じられた。

 何かの葉っぱに包まれたお肉が特に美味しく、私はそれをおかわりした。

 食後のデザートも素晴らしく、お茶は今まで飲んだもので一番おいしかった。ハーブティーっぽい味がした。

 そして、華やかなデザートの数々。

 甘さ控えめで上品な味だ。

 なぜかチョコレート味のものは無かったが、様々なフルーツやナッツ、蜂蜜をアレンジしたケーキや焼き菓子は、美味しくて美味しくて、私はあっという間に全部食べてしまった。


「おいしそうに食べるのう」


 目を細め私の食べっぷりを見ていたタリランさんが、自分の分も食べていいと言ってくれたので、それも全部いただいた。


 ポチ(カニ)たち『どんだけ食べるのっ!』


 デザートは別腹。それが武士のたしなみでしょ。 

    

 ◇


 食事が終わり、お茶のおかわりが出たころ、タリランさんが話しかけてきた。


「のう、ツブテ殿。その黒髪、そちは『迷い人』じゃろう?」


 確か、『迷い人』って異世界から来た人の事だったわね。


「そうだよ」


「すでに『水盤の儀』は、済ませたのか?」


 ぐはっ、悲しい思い出が蘇るじゃないか。


「まあ、済ませたけど……」


「おう、そうか! で、何に覚醒したのじゃ?」


 タリランさんが、こちらに身を乗りだしてくる。

 どうして、そこに食いつくかな。

 

「……魔闘士だよ」


「ん? マトウシ、マトウシ……そんな職業あったかの?」


主様あるじさま、あれでございますよ。通称『残念職』でございます」


 セバスチンが悲しいフォローをしてくれる。


「ああ、それなら分かる。えっ!? ツブテ、そちは『残念職』なのか?」


 残念残念と、ホントうるさいわねえ!


「いいえ、私の職業は『魔闘士』 ずぇ~ったいに、『残念職』なんかじゃないわ!」


「じゃが、それ、あれじゃろ。唱えられる呪文が『あたしが欲しいのね♡』しかないという」


 何それ?


「わたしが欲しいのね?」


 私の言葉を聞いて、タリランさんは残念そうに首を横に振った。


「違う、『あたしが欲しいのね♡』じゃ」


 こんな感じかしら。


「あたしが欲しいのね♡」


 そう口にした瞬間、私の体が薄青く光りだした。

 なんじゃ、こりゃーっ!


「おお、やはり、『残念職』じゃったか。残念じゃ……」


 おいおい、なんだよ、その態度。

 がっかりするにも程があるぞ。

 それっきり、タリランさんは、うつむいて黙りこんでしまった。

 二回りは小さくなったタリランさんを残し、部屋を後にする。


 セバスチンの案内で客室に通された。客室は、浴室やトイレを除いて三部屋もある豪華なもので、ベッドには天蓋がついていた。

 部屋を去ろうとするセバスチンを呼びとめる。


「セバスチンさん、タリランさんは、なんであんなにがっかりしてたの?」


「……そうですな、本来私の口から言うべきではありませんが、ここはよいでしょう。主様は、あなたがレア職、特に勇者になっておられたら、お力添えいただこうと考えておられたのではないかと思います」


 すみませんねえ、残念職で。


「なんで勇者の手伝いが必要なの?」


「ぬ、さすがにそこまでは……。もし、再び主様とお話になる機会があれば、お尋ねくださいませ」


 それだけ言うと、セバスチンは部屋から出ていった。


 ◇


 独りになると、私はいそいそとお風呂の用意をした。

 だって、この世界に来てから、ずっとタライ風呂だよ。

 やっと体を伸ばしてお風呂に入れるんだよ!

 ゆっくり時間をかけ、お風呂を楽しむ。

 バスソルトのようなものをお湯に溶かしているから、いい香りがする。

 お風呂から出たら、きっと私はレイチェル姫ね。

 これ以上ない程いい気分になり、お風呂から上がった。


 浴室には全身大の鏡がある。

 その前に立った時、私は背後を振りかえった。

 部屋に誰かいる!?

 鏡には見知らぬ少女が、しかも全裸で映っていたのだ。 


―――――――――――――――――


ツブテ「誰っ!?」

作者「……」

ツブテ「怖すぎるでしょ、この展開」

作者「確かに、ふふ」

ツブテ「?!」

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