第17話 残念〇少女 ダンジョンボスと戦う
猿から奪いかえしたポーチを腰に着けると、安心したからか身体にまとっていた青い光がすうっと消えてしまった。
それと同時に、ひどいだるさが私を襲った。
もしかして、これって……。
ギルドでもらった冒険者案内書に書かれていた事を思いだす。
魔力切れ。
そう、魔術師が魔術を使いすぎた時に起こる症状だ。
魔術師はこうならないために、魔力を回復するポーションを飲みながら戦うのが普通らしい。
私は自分が魔術師だとは考えていなかったから、魔力回復ポーションを用意していなかった。
その時、墨を塗ったような暗闇の中、なにかの音が聞こえてきた。
しかも、それはこちらへ近づいてくる。
やがて、音がはっきりしたものとなる。
ズシン
ズシンン
ズシンンン
何か大きく重いものが歩く音だ。
圧倒的な気配が、部屋の中まで入ってくる。
「ゴガーッ!」
そいつが、雄たけびをあげた。
空気がビリビリ震える。
イチかバチか、私はスキルを発動することにした。
「あたしが欲しいのね♡」
ぐうっ。
強烈な気だるさが全身を襲う。
立っているだけで精一杯だ。
青く光る私の身体が、相手の姿を闇から浮かびあがらせる。
それは巨大な猿だった。いや、巨大なゴリラだった。
身長が優に三メートルはありそうだ。
「ゴガーッ!」
再び咆えたゴリラが、こちらへ近づいてくる。
こちらに襲いかかるかと思ったが、ヤツは意外にも私の横を素通りし、壁際で倒れている猿のところへ向かった。
薄暗い部屋の隅に倒れている、小さな猿にしゃがみこんでいる。
両腕で抱きよせて……おいおい、キスしてるよ。
もしかして、恋人?
あんたたち、リア充? いや、ゴリ充?
巨大ゴリラは、ゆっくりこちらを振りむく。
あ、この人、いや、このゴリラ、
だけど、こっちは凄まじい倦怠感から少しも動けない。
くう、これはピンチね。
ぶわっ
巨大ゴリラが一瞬で視界一杯になる。
その巨大な足の裏が、私の顔に向かってくる。
なんとか両手を十字にし、それをブロックした。
ゴンっ
ものすごい衝撃が私を吹きとばす。
部屋の入り口近くまで飛ばされた私は、よろめきながら通路へ逃げようとした。
ぶわっ
巨大ゴリラが一瞬で入り口に立ちふさがる。
巨大な拳が私に向かってくる。
腕で受けると確実に骨を粉砕されそうだから、私はからだを傾け、それを避けようとした。
ボキッ
「ぐっ!」
巨大ゴリラの拳は、私の肩をかすめただけで、その部分の骨をへし折った。
私の身体はコマのように回り、空中を飛ばされる。
どん
ぴきっ
「ぎゃっ!」
骨折による激痛が、倦怠感を吹きとばす。
はっきりした意識が、違和感を捉えていた。
今の「どん」は、私が背中から壁にぶつかった音だが、「ぴきっ」と「ぎゃっ!」は、私の足元からしたような気がする。
恐る恐る下を見ると、そこには小さな猿が倒れており、その股間に私の冒険者ブーツが……。
踏んだよね、何かちいさなモノを踏んだ。
白目を剥き泡を吹いている猿から、そっと離れた。
巨大ゴリラは、再び私を無視して倒れている猿の所へ駆けよる。
小猿の股間を調べるゴリラ。
「ふっ」
ゴリラから、そんな声が漏れる。
ヤツは猿を大きな右手に載せると、ぽいっと捨てた。
「おい、彼氏が可哀そうだろう!」
巨大ゴリラは殺意を顔に貼りつけ、こちらにゆっくり近づいてくる。
これ、やばいよね。
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