第4部 残念美少女、キザ男と戦う

第11話 残念美少女、〇〇に突っこまれる

 することがない私は、買い物に出かけることにした。

 この世界に来てから、ずっと同じジャージを着ている。

 いくら格好を気にしない私でも、これではいけないと思ったのだ。

 だって、もしかするとマサムネ兄さんに会えるかもしれないし……ぐへへ。


 ◇


 私は、『アヒル亭』のおばさんに紹介されたお店に来ている。

 お店は表に木の看板は出ているけれど、ショーウインドーはなく、中まで入らないと何のお店か分からない。

 

「こんにちはー!」


 店の中には棚が並んでおり、そこに服が並べてあった。

 なぜか、ハンガーに吊るしている服はない。

 奥から三十才くらいの感じがいい女性が出てくる。


「*+$%!」


 あー、そういえば、相手が指輪していないと話ができないんだった。

 私が店から出ようとすると、女の人に手をつかまれる。

 どうやら、ちょっと待てと言ってるらしい。

 彼女のジェスチャーから想像したんだけど。

 女性は奥へ入ると、すぐに出てきた。


「ごめんなさい、指輪を外してたの。ウチは、あまり他所よその人が来ないから」


「こんにちは。私、ツブテといいます。『アヒル亭』のおかみさんからここを紹介されました」


「ああ、モアナさんね。彼女には、いつもお世話になってるのよ。この指輪なんて本当は凄く高価なものなんだけど、アレク君が安く譲ってくれたの」


「アレク?」


「モアナさんの息子さん。魔術学院の優等生なの」


「ああ、そうでしたか」


 そう言えば、『アヒル亭』の女将さんが、息子がいるって言ってたっけ。


「あ、ごめんなさい、服が欲しいのね?」


「はい」


「予算は?」


「ええと、これでお願いします」


 カニを入れている腰のポーチから、銀貨を三枚取りだした。


「まあ! お金持ちなのね。この予算なら、色々選べるわよ。でも、このおかね、なんで濡れてるのかしら? 所々、白雪草の種のようなものが付いているし」


 カニと一緒に入れてたからね。

 ポーチの中は、カニが快適なように常に湿らせてあるから。

 あと、白雪草の種がどんなものか知らないけど、銀貨に付着している黒い物体は、カニのウ〇チではないと思う、いや、そう思いたい。


 そのときカニの『ポチ』(命名ツブテ)がつぶやいた。


『いえ間違いなく、私のそれです』

 

 ◇


 服を新調した私は、ギルドへ向かった。

 一人で受けられる依頼があるなら、挑戦してみようと思ったからだ。

 ギルドへ行く途中、男女を問わず私にガンを飛ばしてくる者には、近づいてガン見してやった。

 みんな、怯えたように目を逸らしてるな。

 そんなんなら、最初っからガン飛ばすなっての!


 そのときポチ(カニ)が再びつぶやいた。


『みなさん、冒険者姿のツブテちゃんがステキだと思って眺めてただけなのに……』


 ◇


 両開きの扉を押しあけ、ギルドに入る。

 

「こんにちはー!」


「あ、ああ、こんにちは、ぷっ」

「こ、こんにちは、ぷぷっ」

「こんにちは、ぷぷぷっ」


 みんな、こちらを見ると微笑ほほえんでいる。

 心温まる光景だ。


 そのときポチ(カニ)が呟いた。


『なんか、みんな馬鹿にしたように笑ってるんですけど』


 壁の依頼が読めないので、誰かに読んでもらわなければならないと気づいた。

 しょうがないから受付カウンターの列に並ぶ。

 受付のお姉さんに読んでもらおう。

 並んでいるのは二人だけだから、それほど待たされなくて済むはずだ。


「おい、『残念』」


 背後で声がした。

 

「おい、『残念』 聞こえないのか?」


 誰か私以外にもその名で呼ばれている人がいるらしい。

 ちょと可哀そうかも。


「おい、聞こえないのか? 黒髪のお前だよ」


 えっ、私以外にも黒髪の人がいるの?

 私は思わず振りかえった。

 そこには、キザな感じの若い男が、私の顔に指先を突きつけていた。


――――――――――――――――


ツブテ「ほ、本当にカニが伏線だった……」

作者「甘いな、ケーキより甘い。こっからだぜ、カニの活躍は」

ツブテ「なんでーっ!?」

作者「(ある意味、主人公カニ)ぷっ」

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