第10話 残念美少女、落ちこむ

 抜けるような青空の下、周囲には美しいお花畑が広がっている。

 私の心は、燃えあがっていた。

 愛する人を守るために。


「王子様、あなたの背中は私がお守りします!」


「レイチェル! お前は俺が守る!」


 私は王子様と背中合わせになり、とり囲む魔獣と戦っていた。

 王子様の正拳突きが決まり、狼魔獣が倒れる。

 私の蹴りが、フォレストタイガーの顎を砕く。

 あれほどいた魔獣の群れが全て地に伏した。

 やっと終わったと安心したとき、地面を揺るがすほどの大きな声がした。


「ワハハハハ、手下どもが世話になったな! ワシが魔王、鬼丸おにまるじゃ。ごみ虫どもめ、ひねり潰してくれるわっ!」

  

 私たちの前に現れたのは、身の丈十メートルはあろうかという巨人だった。

 

「くっ、でかいっ!」


 そう叫んだ王子様は、ひるむことなく巨大な敵に向かっていった。

 王子様渾身のローキックが決まる。

 まあ、敵がでかいから、蹴れば全てローキックになるんだけどね。


「ん、なんだ? 今、何かしたのか? 蚊に刺されたたほども感じなかったぞ、わはははは!」


 王子様が、がっくり膝を着く。

 鬼丸の巨体が彼に近づく。

 愛する人の危機、今こそ私の出番ね!


 光の中で私の服が全て消え、黒髪が銀髪に代わる。

 身長も十センチほど伸びる。

 新たにまとった、ピンクのヘソ出し衣装でポーズを決める。

 

「くるくるくるりん、くるりんぱっ! 魔法少女レイチェル参上!」


「おのれ、何ヤツ?!」


「だから、私はツブテ……じゃなかった、魔法少女レイチェルよっ!」


「……まあ、名前はいいだろう。だが、さすがに『くるりんぱっ』は、ないんじゃないの?」


 鬼丸が、巨大な顔に残念そうな表情を浮かべる。


「うるさいっ! 王子様に代わって成敗だぜっ!」


「……それ、魔法少女のセリフとしては、どうかと思うぞ」


「そ、そう? では、王子様に代わってお仕置きよっ!」


「……おいおい、いいのかよ、それ」


 鬼丸の表情が、さらに残念そうなものに変わる。


「じゃかーしいっ! 大人しくぶっ殺されろっ!」


 私は先っちょにキラキラ光る星がついたステッキを大きく振る。


奥義百拳百蹴すごいわざっ!」


「おいおい、魔法少女なのに殴ったり蹴ったりしてるよ!」 


 鬼丸が憐みのこもった声で、そう言った。 

  

「ぬう、技が効かないっ」


「魔法少女は、近接戦闘なんかしちゃだめなんだよ。特に、星がついたステッキで殴っちゃダメ」


 鬼丸が優しく話しかけてくる。


「えっ、そうなの? 分かった、メモッとく。気を取りなおして……この技、受けてみろっ! 最終奥義千拳千蹴ちょーすごいわざっ!」


「だから~、手とか足とかダメだって言ってるじゃん」


「くっ、なかなかやるな!」


「ボク、なんにもしてないんだけどね。でも、めんどくさいから、もう潰れてちょーだい。フライングボディープレス!」


 ジャンプした巨体が、私たちの上へとのしかかる。


「な、なぜ、鬼丸おまえがその技をっ?!」


 私が叫ぶ。

 王子様が、私をぐっと抱きよせる。


「「くときは、一緒ーっ!!」」


 私と王子の声が、辺りに響いた。


 ズズーン


 ……。

 ……。

 ……。


 あれ?

 ここ、どこ?

 宿の部屋か。

 私、ベッドから落ちたのね。

 だけど、夢の中で私は魔法少女レイチェル、そして愛しの王子様マサムネ兄さんとも会えたし、まあいいか。

 ぐふふふっ。


 ◇


 夢で愛しい人に会え、ちょっと元気が出た私だが、宿の食堂でヌンチの顔を見た途端、昨日の出来事を思いだしてしまった。

 最も残念な職業『魔闘士』……。

 

「お早うございます。メグミさん、目の下に隈ができてますよ」


「誰が熊やねん!」


「えっ……(残念ですw)」


「お前、今、何か言ったか?」


「い、いえ、何も」


「語尾にが生えてたと思ったが、気のせいか?」


「突っこむとこ、そっち!? え、ええ、気のせいですよ」 


「ところで、『魔闘士』について調べてきてくれたんだろうな?」


「ええ。非常に記録が少ない職業ですが、なんとか調べましたよ」


「で、何が分かった?」


 ヌンチは、懐から一枚の紙を取りだした。


「ええと、二百年前になりますが、隣国アリストにその職に就いた人がいます。名前は、『モウ・イヤン』 ずいぶん変わった名前ですね。この人も、迷い人ですかね」


 絶対に違うと思う。


「とにかく、このイヤンさんですが、歴代最高の魔闘士と言われたそうです」


「ふむふむ、続けて続けて」


「彼は、なんと魔闘士レベル2に登りつめたそうです。これは凄いことですよ」


「……どこが凄いの?」


「歴代の魔闘士は、みなレベル1で亡くなっています。彼は三十年にわたる血のにじむような修行の末、やっとレベル2にたどりついたそうです」


「おお、そりゃすごいな!」


「ところが、レベル2になって三日とたたず、あの世に旅立ったそうです。モウ・イヤンが書いた、『我が魂の記録』から察するに、死因は過労のようです。そして、彼が最後に残した言葉が、『もう、い――』」


「も、もういい! みなまで言うな。その後を聞くと、いろいろ残念なことになりそうだ」


「そうですか」


「ところで、ヌンチ。お前、魔術師だと言ったな?」


「ええ、そうですよ」


「お前の魔術師としてのレベルは?」


「ええ、レベル9ですが」


 えっ!?

 魔闘士の最高ってレベル2じゃなかったっけ。

 何なんだ、レベル9って。


「そ、それは凄いのか?」


「平均よりかなり低いと思います」


「……レベル9で、平均より低いのか」


「なんでも、魔闘士はものすご~くレベルが上がりにくい職業だそうです」


「そういえば、レベルが上がれば、スキルが増えたりするんだろう? イアンさんは、それについてなにか書き残していないのか?」


「ええと、ここに彼が最期に残した言葉があります」


 彼は、紙の一番下の方を指さした。


『もし、万一、あなたが、魔闘士に覚醒したら……』


「覚醒したら?」


『諦めなさい』


 それを聞いた私は思わず体の力が抜け、「_| ̄|○」のような姿勢になった。

 涙を流しているから、本当は「_| ̄|Q」の感じだが。


 えっ?

 残念なことするな?

 落ちこんでいる人には、優しくしなくちゃいけないんだよ!


「まあ、人生、職業が全てではありませんから」


 ヌンチの言葉は、なんの慰めにもなっていない。

 

「うーんと、覚醒した後、『今のナシ』って「できません!」


 早っ、答えるの早っ!


「大体、神樹様から頂いた聖なる職業を『今のナシ』とは、どういう了見ですか!」


「わ、悪かった」


 温厚なはずのヌンチが、ものすごく怒っている。

 

「とにかく、私はグラントさんのパーティ『赤い稲妻』と討伐依頼の予定がありますから」


 『赤い稲妻』っていう名前は、中二病みたいだと思ったが言わずにおいた。

 こう見えても、場の空気が読める子なのだ、私は。


――――――――――――――――


作者「レイチェル姫」

ツブテ「ぐはっ」

作者「魔法少女なのに、殴る蹴る」

ツブテ「ぐはぐはっ」

作者「逝くときは一緒ーっ(失笑)」

ツブテ「ぐはぐはぐはっ」(コロポテ)


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