第12話 残念美少女、キザ男と戦う


 ギルドの受付カウンターの前で、私は顔に指先を突きつけられていた。

 反射的にその指を右手で握り、古武術の技で極める。

 

 グキリ


 キザ「グワッ、イテテテテ!」


 私「俺の後ろに立つな!」


 カニ全員『『『ゴ〇ゴかっ!?』』』

 

 キザ男は涙を流し、床にうずくまっている。

 そいつを放っておき、また受付に並んだ。


「ゆ、許さねえっ!」


 背後でキザ男が叫ぶ。

 冒険者たちが、ガタっと椅子から立ちあがる気配がした。

 振りむくと、キザ男が涙目で木の棒を構えている。

 人差し指は、あらぬ方向に曲がっているから、残り四本の指で木の棒を握りしめていた。

 そういえば、ヌンチによるとあの棒は、『ワンド』って言うんだって。

 魔術を唱えるための武器らしい。


 ポチ(カニ)『なぜこのタイミングで解説っ?!』


 キザ男「死ねっ!」


 キザ男が振りかぶったワンドの先に、火の玉が発生した。

 おお!

 やっと君の出番だぜ、ポチ(カニ)!


 ポイッ


 ポチ(カニ)をキザ男に投げつけた。


 ポチ(カニ)『何でやねんっ!』


 振り降ろしかけた男の腕がポチ(カニ)を叩き落とす。


 ポチ(カニ)『ぐえっ!』 

    

 その瞬間、『痺れガニ(ポチ)』から白い稲妻が周囲に放たれる。

 電撃だ。


「アバババババッ」


 その時ギルドに居た人々は、キザ男の骨格を幻視した。


 バタン


 見事なアフロヘヤとなったキザ男は、顔から床に倒れる。

 白い煙が、しゅーっとヤツからたち昇った。

 あの煙、霊魂エクトプラズムじゃね?

 床でもぞもぞしているポチ(カニ)を手のひらに載せる。


「ポチ、よく頑張ったな」


 ふう、やっとカニが役に立ったぜ。

 いい女は準備を怠らないのだ。

 痺れガニは小さくても魔獣の一種で、興奮すると電流を放射するのだ。

 私はポチ(カニ)を腰のポーチに戻した。

 こころなしか、背中にある「(^w^)」の模様が、「(;w;)」となっている気がするが、ここは気にしないでおこう。


 カニ全員『『『気にしようよっ!』』』

 

「おいおい、また嬢ちゃんか?」


 振りむくと、ギルマスのトリーシュさんが立っていた。


「あちゃー、どうしちまったんだ、こいつは?」


 彼が、床に伸びているキザ男を指さす。


「私のポチがやりました」


 カニ全員『『『友達なら、大切にしようよっ!』』』



 ◇


 ギルドの応接室に連れていかれた私は、トリーシュさんと向かいあい、ソファーに座っている。


「で、ケンカの原因は何だったんだ?」


「よくぞきいてくれました! あいつが、私の顔を指さしたんですよ!」


「……えっ!? それだけ?」


「後ろに立たれて指さされたら、普通、タコ殴りにしますよね」


「いやいや、しないから!」


「その上、あいつ私のこと『残念』なんて呼んだんですよ」


「なんだって、そんなことを……あっ、そういえば、ヌンチがお前は『魔闘士』に覚醒したって言ってたな」


 原因はヌンチか!

 あいつ、後で殴る。

 いや、ポチで電撃の方がいいか?


 ポチを除くカニ全員『もう、ポチをそっといてーっ!』


「あのー、『魔闘士』って、そんなに残念な職業なんですか?」


「いや、それほど『残念』かな~、どうだろう。そりゃ、『残念』な職業って言ってる人もいるよ。でも、『残念』ってなんだろう、『残念』って。人によって『残念』が『残念』でなかったり、『残念』が『残念』だったりするんじゃない? だから、それほど『残念』『残念』って『残念』にこだわるほうが、よっぽど『残念』だと思うよ」


「ぐはっ」


 話の途中で、私はすでに床で「_| ̄|○」していたが、今では「ーーーQ」みたいになっている。ああ、「〇」じゃなくて、「Q」なのは涙が出ているから。


 カニ全員『『『この人、残念!』』』


「なんか、誰かの声が聞こえる気がするんだが、それはまあいいか。とにかく嬢ちゃん、あんまりギルドを引っかきまわさないでくれよ」

 

「は、はい」


「とりあえず、みんなには嬢ちゃんの後ろには立つなと言っておいてやるから」


「あ、ありがとうございます!」


 結局この日は依頼を受けることなく、『アヒル亭』へと帰った。


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