さよなら、大好きだった人

禎祥

さよなら、大好きだった人

少しずつ家の中を片付け始めたのを、あなたは知らないでしょう。

私の様子がおかしいことには気づいていたようだったけど。

必要最低限のものだけを残して、友人たちにお別れを済ませたの。

あなたには決して伝えないよう、お願いしたわ。


その病は少しずつ私を蝕み、全身に痛みを感じるようになった頃にはもう何もかも手遅れだったの。

食事を身体が受け付けなくなって、ずいぶん痩せてしまったわ。

でも、あなたは何も知らないでしょう。


だって、最後にデートをしたのは2カ月も前。

その頃はまだいくらかふっくらしていたわ。


電話は週に一度だけ。

いつだって自分の話ばかりで、私の話なんて聞かなかったでしょう?


それでも、あなたが好きだった。

私は何度も愛を捧げ。

いつだってあなたははっきりとは応えてくれなかった。


去ろうとすると、「振ってないよ」なんて引き留めて。

なんてずるい人。

なんて離れがたい人。


でもこの名もない関係も、今度こそ終わり。

あなたが次にここを訪れる頃には、きっと私はこの世にはいない。

がらんどうになった家で、あなたは私を探すかしら?


あなたは私がいなくなったことにいつ気が付くかしら?

少しは悲しんでくれるのかしら?

私はあなたの心に棲めたのかしら?


最期にあなたの声が聞きたかったけど、もう受話器を持つ力もないの。

だから何も告げずに逝くわ。


さよなら、大好きだった人。

嘘でも良いから、一言、「好きだ」と言って欲しかった。

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さよなら、大好きだった人 禎祥 @tei_syo

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