第32話 本部長と主任-7

「本部長。帰らなくて大丈夫なのですか?」

「なぜ?」

 田川主任は遠慮がちに答えた。

「いえ、お子さんが今大変だと聞きましたので」

 本部長は持っていたコーヒーの缶を捨てた。田川主任は続けて話した。

「心配ではないのですか?」

 本部長は新しくホットコーヒーを買った。ブラックコーヒーだ。

「心配ではあるが、それはプライベートの話だ。仕事には持ち込まないよ」

 ブラックコーヒーを田川主任に手渡した。もう一本、今度は糖分の入ったホットコーヒーを買った。

「ありがとうございます」

 本部長はコーヒーを啜った。

「俺達は出来ることをするだけだ。それこそ、この仕事は世界のためなんだろう?世界のためには子どもも犠牲にしなくては、な」

 田川主任は居心地が悪そうに言った。

「そうですが…」

「まあ、そんなに気にするな。子どもは案外丈夫に出来ているもんだ」

「わかりました。余計なことを言って、すみませんでした」

「いいや。大丈夫だ」

 本部長はコーヒーをもう一口啜った。もう熱が冷めてしまっていた。

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