第31話 泣いてやんない
お昼休みになると、購買でパンを買って屋上へと上がった。寝転がってパンを食べる。空は少し曇っているけど、雨の心配はなさそうだ。
零は今どういう状態なんだろう。風邪って聞いたけど、酷いのかな。学校が終わったらお見舞いに行こうかな。でも、零の家に行くには厳重なロックを通らないと入れないし。本当に病気なら零にロックを解かせるのは負担をかけちゃうだろう。
あたしはパンを食べながら考えていた。すると屋上のドアが開いた。ここには普段誰も来ないのに、珍しく誰かが来たようだ。
「あんたが佐々木蓮ね」
太った女生徒が話しかけてきた。どんぐりのような体型だった。
「そうだけど…何か用?」
女生徒達は互いを見合って、へらへらと笑っていた。すると、屋上のドアの鍵が閉まる音がした。
「ちょっと調子に乗り過ぎたようね」
痩せた女生徒が笑いながら言った。。モデル体型ではないけど、細身のシルエットに目がいく。
「零君に付き纏うなって、何度も忠告したはずよ」
つり目の女生徒は挑発するように言った。特徴的な目で睨まれた。
「零と一緒にいて何が悪いの?」
「あんたと零君とじゃ釣り合わないのよ。自分でもそう思わない?」
太った女生徒が言った。ならどういった人が零に釣り合うんだろう。あたしはそのことに触れずに、断ち切った。
「そんなのあなた達に言われる筋合いはない」
「まあ、どうでもいいけどね。そんなの」
細身の女生徒はまたもへはへらと笑いながら言った。
「これからあんたはあたし達にボコられるだけだし」
つり目の女生徒は、睨みを利かした。
三人の女生徒がじりじりと近づいてきた。痩せた女生徒に羽交い絞めにされた。振りほどこうにも意外と力が強く振りほどけない。
「さっきまでの威勢はどこにいったのかしら、ね」
太った女生徒がお腹を殴ってきた。腕力には自信があるといった感じだ。確かに腕力はあった。あたしは、その場に倒れ込みそうになった。羽交い絞めしている痩せた女生徒が無理やり起こして立たせる。
「これから零君と関わらないなら許してあげるけど?」
あたしは絶対に屈しない。こんな卑怯なやり方をするヤツに負けたくない。
「絶対嫌」
「あらそう?じゃあ、黙って殴られておきな」
あたしはボコボコに殴られた。服を着ていたらわからない場所ばかりを狙って殴っているのがわかった。その証拠に顔には一発も拳を喰らわなかった。
ねえ、零。あたし達って一緒にいちゃダメなのかな。意識が遠のいていった。
起きあがると身体中が痛んでいた。腹筋に力を入れるとお腹が痛むし、立ち上がると足が痛んだ。身体中が針金を通したみたいに、ぎくしゃくと動いた。
ふらふらの足で屋上のドアを開けた。鍵は開いていた。携帯で時間を見る。今はちょうど六時間目だ。一時間以上くたばっていたわけだ。骨まで軋み、プレスされたみたいに動き辛い。零のそばにいようとするとこういうこともあるのか。女子も男子も、今も昔もやることは一緒らしい。おじいちゃんの時代でもこういったことはあったと言っていたからだ。こういう時は決して泣いて屈してはいけない、というのもおじいちゃんの教えだった。あたしは、時間をつぶしてホームルームが始まってからクラスに戻った。
クラスに戻ると、他の生徒は不思議そうな目で見ていた。那智が話しかけてきた。
「どうしたの?どこか具合悪いの?」
「お昼ご飯食べた後、寝ちゃってて…。起こしてくれる人もいなかったし」
「心配しちゃったよ。何かあったらあたしか零君に言うんだよ」
「うん。大丈夫だから」
那智は自分の席へ戻っていった。あたしも自分の席へと戻った。
放課後になると、生徒は続々と帰っていった。あたしも帰りの支度をして、昇降口へと向かった。まだ身体中が痛い。だけど、ここから早く抜け出さないと、また襲われるかもしれない。急いで駅まで向かった。
電車に乗り、安心して家までの道を歩いた。ここまで追ってくることはないだろう。あたしは玄関を開け家に入った。
「ただいま」
「おかえりー。姉ちゃん今日大丈夫だった?」
宵月はいつになく心配そうな表情で見ていた。
「何が?」
「なんか、こんなページが出来てたから…」
テレビに宵月の見ているページを映し出した。するとそこにはあたしの姿があった。ボコボコに殴られた後、倒れているあたしの姿だった。
「これって姉ちゃんだよな?」
あたしは言葉が出なかった。本当は気が狂ってしまいそうな感覚を覚えていた。だけど、堪えて言った。
「大丈夫。そんなのあたし見ないし。あー、電子コンタクトしてなくて良かった」
「あ、姉ちゃん」
宵月の声を聞こえない振りをして、あたしは自分の部屋へと戻った。なんでそんな卑怯なやり方してくるの。ずるい。三人がかりで襲ってきたり、ネットに姿を晒したり。涙が零れそうになった。
絶対泣いてやんない。
絶対。
絶対。
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