第20話 本部長と主任-4

 会議室の中では会議と言う名の密談が行われている。田川主任はその中には入っていなかった。

 別の部屋で待機し上の下す命令を待っていた。部屋の扉が開く。本部長が入ってきた。

「本部長。どうでした?」

「これからは僅かな変化も見逃すな、と言われた」

「では、このまま続行ということですか?」

「そういうことだな」

 田川主任は安堵の溜め息を吐いた。

 本部長は椅子に腰を下ろした。ふとコーヒーを手に取ると中身が空だった。また重い腰を上げた。

「あ、コーヒーですか?」

「ああ、今日も長いからな」

「僕もお供します」

 二人はロビーに向かった。

「でも、良かったですね」

 田川主任は自販機からコーヒーを取り出した。

「何がだ?」

 田川主任は身振り手振りで説明をした。

「今度の上の命令で中止だと勝手に思っていました。それが続行になったので…」

 本部長も自販機でコーヒーを買った。

「そうだな。俺はどちらに転んでも喜ぶことは出来なかったな。今も喜んではいない。子どものことを思うと、どうもな…」

 田川主任は本部長の胸中を察した。

「そうですよね。勝手に喜んでしまって申し訳ありません」

「いや。これは俺の私情だからな。本来挟むものじゃない」

 田川主任は黙ってコーヒーを飲んだ。

「さて、また戻ったら続きだ」

「はい。頑張ります」

 二人は室内に戻っていった。

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