第16話 ウィンドウショッピング
三駅先のショッピングモールの駅前で待ち合わせをしていた。学校とは反対方向だった。最近はネットでなんでも注文出来るようになったため、こういったショッピングモールも少しずつネットに移行していっている。
それでも、この駅は人の行き来が多いため、大型のショッピングモールがある。
人混みは苦手だけど、ウィンドウショッピングは好きだった。手に取って見て、自分の足で店内を回る。
それは、お土産を選んでるみたいなうきうきする楽しみがあった。
午前十時に待ち合わせだ。あたしは九時五十分に待ち合わせ場所に着くように家を出た。待ち合わせ場所に近付くと零の姿が見えた。
ワイシャツに黒のカーディガンを羽織り、青のズボンを履いていた。シルエットが既に格好良かった。街行く人が振り返っているのが周りから見ているとわかる。
零の周りだけ世界が違って見える。零があたしに気付いて声を掛けてきた。
「おはよう。早いね」
「零の方が早いよ。何分くらい待ってたの?」
「ほんの数分だよ。じゃあ、行こうか」
零はすたすたと歩き出した。あたしはなんだかもやもやとした。
本当に高校生男子だろうか。そんな疑いを感じてしまう。あたしは零の左手をじっと見つめていた。零は視線に気付いて振り返った。
「どうしたの?」
「んーと……、手……」
「手?」
あたしは篭った声で素直に言った。
「手を……繋ぎたいな」
零はうっかりしていた、といった顔をして左手を差し出してきた。
「じゃあ行こうか?」
あたしはその左手を右手で握った。零の手はひんやり冷たかった。
「うん」
零と二人でショッピングモールに入っていった。
ショッピングモールは以前来たときよりも店舗数が減ってしまっていた。けれど、それでも十分と言えるほど賑わっていた。そんな中でも周りの人はワイヤレス・イヤホンを差し、電子コンタクト越しに見える世界でものを選んでいた。
お母さんに勧められて、一回だけ着けたことがあったけど、なんかフィルターを通しているようで好きじゃなかった。
あたし達は適当にぶらついた。何を買うとかの目的はなかった。ただ零と一緒に買い物をする、ということが目的だった。
最初は雑貨屋さんに入った。きらきらとした宝石箱を売っているような雑貨屋さんだった。入った瞬間零は少し戸惑った様子で言った。
「派手だね」
店内のキラキラしたアクセサリーに目をしばたたかせた。
「そう? こんなの普通だよ」
「そうかな? 確かに綺麗だけど」
零は、困惑している。綺麗だけど、こんなにキラキラしたものは初めて見た、と言いそうな顔をしていた。
「零はシンプルなのが好きなんだね」
「そうかも。蓮はこういうのが好きなの?」
あたしは頷いてネックレスを手に取った。
「うん。こういう綺麗なものとか好きなんだけど、身に着けるとなるとね。ちょっと、ね」
「ふーん。好きなら着ければ良いのに」
零は不思議そうに首を傾げている。あたしは手に取っていたネックレスを元の棚に戻した。
「次のお店に行こっか」
あたしは零の手を引いてお店を出た。二階に上がり、古着屋さんに入った。古着屋さんでは零に似合いそうな服が多かった。
「こういうベストとかって零に似合いそうだよね」
あたしは、零の胸にベストを当てようとした。零は「いいよ」と言って遠慮していたけど、あたしはそれを無視して無理矢理当てた。やっぱり似合っている。
「これ着てみたら?」
零は少し照れながら、ベストに袖を通した。やっぱり似合っていた。けど、
「格好良いんだけどなんか、ホストみたいになっちゃったね」
零はショックを受けたのか、ベストを脱ぎ俯いてしまった。
「零。格好悪いって言ったんじゃないよ。さっきのベストも格好良かったよ。でもワイシャツとは合わなかったね」
あたしは零を宥めるように言った。零は不意に言葉を発した。
「蓮は優しいね」
「え、そうかな?自分で思ってるのは逆だと思うんだけど」
言われ慣れてないことだけに、あたふたと頭を触ったりして落ち着かなかった。
「蓮の優しさにはいつも救われるよ」
零はそう言って、優しく微笑んだ。
優しいのは零の方だよ。
あたしはちっとも優しくない。零の気持ちだってわからないし、零の望む言葉を掛けられているのかもわからない。
零はどう思ってるかな。
「そろそろ、お昼にしようか?」
零が提案した。
「うん」
あたし達は近くにあったファストフード店に入った。適当に注文をして、食べながら話をした。
「なんだか変な感じだね」
あたしはハンバーガーにかぶりつきながら言った。
「変な感じって?」
零はポテトを一つずつ食べている。食べ方にも品がある。ハンバーガーやポテトで品がどうとかは言えないかもしれないけど。
「なんかさ、学校では制服だし、放課後も外で遊んだりしないじゃない。だからなんか新鮮だなぁ、って思って」
ジュースを飲みながら笑った。
「そうだね。蓮の私服も初めて見たよ。可愛いね」
顔から火が出そうなくらい恥ずかしくなった。こういうことをさらっと言うんだもんな。あたしも返した。
「零だって、なんか、シュッとしてて格好良いよ」
零は笑った。照れも混じっているように見えた。
「ホントだよ。シュッとしてるんだって」
零はまだ笑っていた。今度は可笑しくて笑ってるみたいだ。
あたしも零と一緒に笑った。この時間は二人だけのものだって強く感じられた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます