第2話不芳な勉強
その日の出来事に気を良くしたサトルは数週間後にまた「コルク」に足を向けた。梨奈を指名したのである。そして馬鹿の一つ覚えみたいに尚と拙いピアノを披露するのであった。
「本当にスゴイよ!才能あるよね!」
持ち前の明るさで誉める梨奈にサトルは気を良くしてしまう。
「そんな事ないよ。」
謙遜するものの内心は浮かれていることに自ら気がついていなかった。
そのようにキャバクラに2度ほど通い始めたころ、サトルは会社の上司との飲み会があった。
砂川部長は体格が大きく、声が太く、背も高い圧力がある。そこに、砂川部長の右腕とも言えるイケメンでやり手の能登課長、そして何故か能登課長の部下の田中さんという女性社員が同席して、私を入れて計4名であった。現役のパワー漲る上司2人との席である。
「サトルさー、自分のキャパなんて自分で決めちゃダメなんだよ。やれば良いんだよ。」
イケメン課長の言葉に砂川部長は楽しそうである。
それはそうと、ふとさっきから気になる事があった。砂川部長が田中さんといちゃいちゃしているのである。
部長は妻帯者である。サトルは砂川部長にお世話になっているので、小説上であっても下手な事は言えないが、なぜ田中さんが嫌がっていないのか不思議で仕方なかったのである。
或いは本当は嫌がっていたのかどうかは定かではなかったが、更に驚愕したのは飲み会のあとの行動であった。
終電時間も遥かにこえて、ビジネスホテルに泊まることとなり、サトルは能登課長と一緒の部屋になった。
砂川部長はというと、田中さんと一緒の部屋に消えていったのである。
サトルはこの一連の「劇場」をみて、サトルにはない、勢いという手法を「勉強」したのであった。
そんな経験を挟んで、遂に「コルク」へ3回目の頻回と相成った。その日、サトルは友人と大酒をくらってその勢いで向かった。勢いというのはまさに勢いそのもので、自分の年収からしても雰囲気にしても敷居の高いキャバクラ店へ何度も行くのは勇気がいったし、梨奈を指名するのも照れ臭かったけれど、それらは全て酒の力でいけたのである。
梨奈は相変わらず明るげで、しかしサトルはそれに反してひたすら異常であった。
卓に着くなり、
「あのさぁ、終電逃しちゃったんだけど、今日、泊めてくれない?」
とうつつをぬかしたのである。
無論、この言葉は、つい先日の「勉強」の成果である。
すると梨奈は意外にも、
「泊めるのは無理だけど、このあと飲みに付き合ってもいいよ。」
と吝かでなく言ってくれたのである。
これが所謂アフターというやつであるとはあとで知ったが、サトルにとってはまさにリミットエディションのサクセスストーリーなのだから、これで満足すべきであった。
しかしこの男は、
「泊めてくれよ。」
と駄々を捏ね始めたのである。もうこの辺からサトルの意地汚さを露呈し始めていたのであった。
しかし梨奈は「コルク」が終わった後に、バーに案内してくれたのであった。
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