勇者イチゴと竜の王——暇つぶしに適当な魔法陣を書いてみたら、本当に女勇者（見習い）を召喚してしまったというお話

第15話 ウルファの告白

「そういう事だ。よろしく頼むぞ」

　よろしく頼まれてしまった。

　頬を赤く染め、俯いたままのウルファにだ。

　ここはどうするべきか。ウルファ相手に念願の童貞卒業を成すべきか。いやいやそれは早計であろう。彼女はラグナリアの親衛隊、しかも隊長なのだ。俺みたいなどこの馬の骨ともわからぬ輩を相手に、軽々しく男女関係を結んでよい立場ではないはずだ。

　グダグダと考えあぐねている俺に対し、ウルファが質問して来た。

「なあ、壮太。貴様の使っている寝台は……大きいのか？　それとも小さいのか？」

　寝台……ベッドの事だな。残念な事に、俺が使っているのはシングルベッドで、安物のパイプの奴だ。

「一人用の小さいものですね」

「そうか。では、就寝時には体が密着してしまうのだな。否が応でも触れ合ってしまう……私に眠れぬ夜を過ごせと……」

「いや、夜はぐっすりと眠って下さい。もし俺が邪魔なら別の布団で寝ますから」

「壮太……私と密着するのが嫌なのか？」

「そうではありませんが」

「なら良いではないか。存分に密着して陶酔してみたい」

　この人は異性と寝る事に抵抗がないのか。それとも、俺に対しての好意や愛情といった真剣な感情に基づくものなのか。戸惑い恥じらうウルファの姿は文句なしに可愛いらしい。それは恐らく、彼女の恋愛に関する経験値が低い事を物語っているのだろう。彼女自身は未経験者……つまり処女に違いない。では尚更、安易に手を出すべきではないと思うのだが。ここは確認してみよう。

「ところでウルファさん」

「何だ？」

「ウルファさんは彼氏はいないのですか？　結婚を前提として付き合っているとか、もう約束されているとか、そんな人は？」

「いない」

　即答だ。では質問を変えよう。

「今まで付き合ったことがある人はいないんですか？」

「いない」

　こちらも即答だ。男性経験は無いと断定して良さそうだ。

「俺の目から見ても、ウルファさんは綺麗だし可愛いし、学校なんかではモテモテじゃなかったんですか？」

「また可愛いと言った……」

「ああ、気にしないで下さい」

「気にならない方がおかしい……」

「ごめんなさい。では、学校ではモテモテだったのではないですか？」

「学校の事は思い出したくもないのだが、私の事も話しておかなくてはいけないだろうな。壮太は未来の夫になる男だから」

　未来の夫？

　いやいや、そんな安易に決めつけていいの？

「私は平民の出だ。両親を早くに亡くし孤児院で育てられた。幼年学校の頃は、私が強すぎた為か魔王と呼ばれたていたのだ。ああ、幼年学校とは主に平民の子が通う公立校だと思えばいい。様々な種族の子が集まる、いわゆる多様性を重視したと言えば聞こえはいいが、まあ、弱肉強食で強者カースト的な、暴力が支配する環境だった」

「うわあ。それは酷いですね」

「まあ、代々最強の竜神族が王を務める事になっていたのだ。その王がまともな奴なら良い意味での秩序が形成される」

「なるほど」

「しかし、アレは腐っていたんだ」

「ウルファさんが通っていた幼年学校の王がですね」

「そうだ。ラグナリアには主に５つの種族があるわけだが、その全てが戦闘力では我ら竜神族に劣る。鬼人や石人をな。奴隷のように支配していたんだよ。あのクズは」

「クズなんですね」

「名はバズズリアといったかな。黒竜だったよ」

「黒竜……強そう」

「まあ強かったのだろう。誰も逆らえなかったのだから。しかし、そいつは私にちょっかいをかけてきたのだ」

「ちょっかいですか」

「ああ。愛人になれとな」

「ええ？　幼年学校でしょ。そこで愛人って？」

「恐らく、私の実力を見込んで取り込もうとしていたのだと思う」

「でも、幼年学校って、子供が通う学校ですよね」

「そうだ。奴は何人もの女児を手籠めにしていてな」

「子供に手を出すって、ダメなんじゃ？」

「そうだ。しかしな、奴は並の大人では歯が立たん。強すぎて学校の教員も手が出せなかったのだ。竜神族の衛兵でも連れてこなければ制圧できなかっただろう」

「なるど。それでウルファさんは、その黒竜……バズズリアをやっつけちゃったんだ」

「ああ。もちろん、私自身もあ奴の慰み者になる事など耐えられなかったし、他の女子も開放してやりたかったしな」

「それで魔王になった。黒竜の王をやっつけたから」

「その通り。しかし、私が魔王として幼年学校に君臨する事は無かった」

「へ？」

「そこにいる殿下のせいでな。私の才能に気づいた王家が私の後見となり、王立の貴族校へ通わされたのだ」

　何だかこの先の展開が読めそう。

　平民出の、いや、孤児院で育った出所不明の竜神族の娘が貴族の集う学校へ通うとかさ。嫉妬とか差別とか、めちゃくちゃ苦労しそうだ。俺はウルファに同情してしまっていた。