第14話 可愛いの意味とは?
ヘイゼルさんに連れ出されたのは、このウルファと会う為だったのだ。竜王親衛隊の隊長……多分、彼等の世界では軍事的優位に立っているであろうラグナリアの中でも、ウルファは飛び切り強いに違いない。
しかし、さっきの言葉の真意は何処にあるんだ。「添い寝」に「我慢するな」だ。もしかして、ウルファが俺に惚れてしまったとか? 一目惚れってやつかもしれない。いやいや、そんな事は有り得ない。めちゃ強い隊長さんが、俺みたいな弱々な人間に惚れるとか……無いよな。
とはいうものの、やはり気になる。少し探りを入れてみよう。
「ウルファさん。ちょっとそこのベンチでお話しませんか?」
「ああ」
俺たちのすぐ傍にあったベンチに二人で腰掛ける。
「ところでウルファさんは親衛隊の隊長なんですよね。見かけは非常に可愛いと思うのですが、実際はものすごく強いんでしょ?」
「貴様、可愛いと言ったな? 私の事を可愛いと」
「言いました。お世辞ではなくて、本当に可愛いと思います」
ボフッ! っと擬音が飛び出すかのように、ウルファさんが赤面した。そして恥ずかしそうに俯いてしまう。
「可愛いとか……言うな。恥ずかしいじゃないか」
「え? 言ってはいけない言葉なんですか? 差別用語みたいな?」
「そ、そうじゃない……が……モウドキドキガトマラナイ……」
「え? 聞こえませんが」
本当に恥ずかしそうだ。俺は隣のベンチに腰かけているヘイゼルさんを見た。ちょっと助けて欲しいと目で訴えてみる。
ニコニコと笑っているヘイゼルさんは、立ち上がってからウルファに話しかけた。
「ウルファ。本気なのか?」
「はい。壮太が良ければ是非に」
「うむ。わかった」
俺の当初の予想を裏付けているかのような怪しい会話だ。しかし、俺はどう反応すればいいのか。困った。
そんな困り顔の俺にヘイゼルさんが話しかけて来た。
「ところで壮太」
「はい」
「彼女……ウルファは平民の出なのだ」
「はい」
平民……そうか。ヘイゼルさんの国は貴族社会だと聞いていた。それなら平民で出世するのは厳しい。ではウルファはどうなんだ。平民の出で親衛隊の隊長を務めるなど、能力が突出しているとしか考えられない。
「薄々気付いていると思うが、ウルファの能力は突出している。それに気づいた王家は、彼女が幼少の頃より養育してきたのだ。他の貴族の子弟からすれば、何故ウルファだけが特別扱いされているのか理解できなかったのであろう」
「はい」
「そうだ。嫉妬だ。彼女は嫉妬の嵐にさらされた。しかし、それに打ち勝ち今の地位を手に入れたのだ。王家の後ろ盾があったとはいえ、才能だけで為せるものではない。日々の努力、全身の鱗を剥ぎ取るような血まみれの努力を積み重ねたからだのだ」
これは相当褒められているぞ。しかしウルファは俯いたままヘイゼルさんの言葉を聞いている。
「そんなウルファは、我が国では恐怖の対象として認知されているのだ。そもそも、竜神の女性に対する褒め言葉の中に〝可愛い〟は存在しない」
「え? 本当ですか?」
「我々の価値観では、女性の強さと美しさはほぼ同じ意味で使われる。つまり、女性に対して〝あなたは強い〟と言えば、それは〝あなたは美しい〟と同じ意味になる」
「じゃあ可愛いは?」
「それよ。親しい仲で、いわゆる恋人や夫婦関係でのみ使う。性的に相手を褒める言葉だな」
「え? 性的に褒める?」
「そう。故に、性行為を望むときに使われるのだ。もしくは求愛の言葉だ」
あ……もしかして〝可愛い〟って〝セックスしましょう〟って意味なの?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます