第10話 謎の手紙と魔法の代償

※※※


勇者見習いのイチゴ様。

この度はご同行いただけず、非常に残念です。


貴方の身柄は、我々が必ずお引き受けいたします。

万障お繰り合わせの上、ご一緒いただけますようお願い申し上げます。


エイリアス魔法協会会長

アルダル・アスラ・ジブラデル


※※※


 読み終わったイチゴは手紙を畳んで懐に入れる。そして大きくため息をついた。


「えーっと? この手紙の差出人が、イチゴちゃんを狙っていたの? 攫おうとしてたの?」


 葉月の質問にイチゴは黙って頷くだけだった。そしてヘイゼルがイチゴに尋ねる。


「エイリアス魔法協会とは、獣王の国レグリアスの魔法協会ですかな?」

「それは多分、私のお師匠様が所属しているグラスダース王立魔法協会とは別派の魔法協会の事です。源流はレグリアスの精霊魔術だと聞いたことがあります」

「なるほど。して、その会長さんとやらはグラスダースの人ですかな?」

「詳しくは知りません。ただし、エイリアス魔法協会の本部は、グラスダースの王都アラトフにあります。恐らくはグラスダースの人ではないかと……」


 ヘイゼルの問いに答えているイチゴだが、本当によく知らないようで言葉の切れは悪かった。まあ、自分の所属とは別の組織の事をよく知らないのは当然か。

 そんな話をしていると、ショッピングモールに救急車とパトカーが数台集まって来た。これは当然か。何か得体の知れない者が暴れて、何人かが倒れてしまったのだから。


「ふむ壮太。アレは憲兵かな?」

「警察ですよ。でも、意味としては同じなのかな?」


 サイレンを鳴らして赤いパトランプを回している車両を指さすヘイゼルだ。俺は憲兵の事はよく知らないのだが、戦前の憲兵は警察の仕事をしていたというし、まあそんなモノだろうと適当に返事をしていた。あながち、間違ってはいないと思う。



「ここは逃げるが勝ちだな。面倒事に巻き込まれない為にも」


 ヘイゼルの言葉に一同が頷いた。ヘイゼルの両手から光る玉が幾つも現れ、俺たちの周囲をぐるぐると回り始めた。そして、その複数の、光の玉がひときわ強く輝いたその後、俺たちは何と、俺の部屋へと戻っていたのだ。


「うわああ! 俺の部屋? マジですか?」

「ホントだ。これってヘイゼルさんの魔法? 瞬間移動したの?」


 俺と葉月は驚嘆して声を上げた。ヘイゼルさんは腕組みをしてふふふと笑っている。


「この程度の距離であれば造作もない。しかし、少々腹が減るのが玉にきずだがな」


 とか何とか言いながら、テーブルの上に置いてあった残り物のぶどうパンとハーフサイズの食パンをぺろりと平らげてしまった。しまった! と思った時にはもう遅かった。そして俺は気づいた。皆が土足のまま部屋へ上がっていた事に。


「あああ。みんな靴脱いで。今から掃除機かけるから、ほらどいてどいて」


 まくしたてる俺の勢いに押されたのか、葉月でさえしおらしくしていた。靴を脱がせ、俺が掃除機をかける。葉月とイチゴは床の雑巾がけをしてくれた。一通り掃除が済んだところで、ヘイゼルは俺に頭を下げた。


「済まない壮太。この部屋が土足厳禁だとすっかり忘れていた」

「頭を上げて下さい」


 咄嗟の魔法でそこまで考慮しろとは言えないだろう。警察に捕まってアレコレ説明させられる方が、掃除よりよっぽど面倒だと思うし。ただし、ヘイゼルさんは魔法を使うと腹が減るようで、今、パンを食べたばかりだというのに彼のお腹はグルルルル……と鳴っていた。


 これは不味い。イチゴも大食いだったが、ヘイゼルさんは更に沢山食べるのだ。そして、魔法を使うたびにガツガツと何食分も食べてしまうのかと思うと、目の前が真っ暗になった。


「ちょっと早いけど、夕食の準備しましょ。イチゴちゃん、私の部屋で作るよ。ヘイゼルさんと壮太はここで待っててね」


 買い物した荷物を抱え、部屋を飛び出す葉月だった。イチゴも葉月の後を追い、部屋を出て行った。



 



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