鞄の行方(385字)
駆け込み乗車に失敗し、ドアに鞄を挟まれたまま電車が動き出してしまった。男は鞄を追ってホームを電車と並走したが、結局何もできなかった。
三つ先の駅では友人が男の到着をやきもきしながら待っていた。次の電車が入ってくると、その友人はドアに何か見覚えのあるものが挟まっているのを見つけた。すぐに男の鞄だと分かったが、当の男は乗っていなかった。友人は、男がドアに手を挟まれたまま電車に引きずられて死んだのだと思った。
男の葬儀が営まれた。男は遺失物取扱所と散々やりあったあとようやく鞄を取り戻すと、あわてて自らの葬儀に駆けつけた。参列者はいずれも顔見知りだった。男はこれは何かの間違いだと訴えたが、誰一人耳を貸してはくれなかった。
男は仕方なく片隅で式の進行を見守った。やがて耐えきれなくなってその場をあとにすると、家に帰ってショックで寝込んでしまった。鞄は葬儀場に忘れてきてしまった。
〈了〉
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