自転車にのって(520字)

ある男がバンドをやっている友人にライブに誘われた。ライブハウスがあるのは最寄り駅と同じ沿線のA駅だった。当日、男はライブハウスまで自転車で行った。電車で十五分のところを四十分かかった。「自転車で来たのかよ」男は友人に笑われた。


男は今度は大学の同期の飲み会に誘われた。場所は都心のB駅だった。男は自転車で行った。電車で一度乗り換えて三十分かからずに着くところを、一時間十五分かかった。同期たちは待ち合わせ場所に自転車で現れた男を不可解そうに見つめた。飲み会の席で男は酒を断った。アルコールに極端に弱い体質だからだ。男はそれでも二次会まで参加し、弱々しい笑みを浮かべて隅に座っていた。会計は割り勘だった。


夏になると、男は職場のバーベキューに誘われた。場所は県境にある大きな川の河川敷だった。男はやはり自転車で行った。電車で二度乗り換えて五十分かかるところを、道に迷ったこともあって二時間以上かかった。「どうして自転車で来たんだ?」ある同僚が不思議そうに訊いた。男はうまく答えられなかった。同僚たちがバーベキューを楽しんでいる間、男は堤防を越えたところにあるコンビニまで歩いて行って地図で道を調べた。帰りは一時間四十五分で帰ってくることができた。


〈了〉

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