頼まれごと(305字)

喫茶店のトイレで小用を足しているときのこと、男は卵ともやしとさつま揚げを買ってくるよう妻に頼まれていたことをふと思い出した。読書に夢中になっているうちにすっかり忘れてしまったのだ。


およそ二時間後、二軒目の喫茶店でトイレに入ったときのこと、男は妻に頼まれた買い物のことを今また思い出した。読書に集中しているうちにまたぞろ忘れてしまったのだ。


帰りに立ち寄ったスーパーで、男は頼まれたもののことをぼんやり考えながら売り場をうろついた。卵、もやし、さつま揚げ。男は頼まれたものとは別のものを買った。なぜそうしたのか自分でも分からなかった。


家に帰ると、男はこんな簡単な買い物もできないのかと言って妻にねちねちなじられた。


〈了〉

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