サプライズ(620字)
スカイダイビングを愛好するカップルがいた。結婚を決意した男は、サプライズが好きな恋人のためにフリーフォールの最中にプロポーズをすることにした。
高度3,500メートルの地点でセスナ機から飛び出した二人は、うつ伏せ体勢になって手を取り合い、時速200キロのスピードで空中を落下していった。
男がポケットからおもむろに指輪を取り出してみせると、恋人は歓喜の叫び声をあげた。男は身振り手振りで結婚を申し込んだ。恋人は目に涙を浮かべて繰り返しうなずいた。
男が恋人の左手の薬指に指輪をはめると、高度1,000メートルが近付いてきた。二人は口づけを交わし、見つめ合いながらパラシュートを開くのに安全な距離まで離れた。
開傘高度になり、二人は同時にハッキーを引っ張った。開いたのは男のパラシュートだけだった。気がついた男が顔を下に向けると、恋人がパラシュートを開こうと必死にもがいているのが見えた。ADD(自動開傘装置)も作動していないようだった。そうなると成す術はなかった。男は恋人が豆粒のように小さくなっていき、地面に叩きつけられるのを見た。
男は恋人からかなり離れたところに着地した。しばらく身じろぎもできないでいたが、やがてよろよろ起き上がった。男は震える手でパラシュートを外すと、重い足取りで恋人に近づいていった。生死を確かめるまでもなかった。男は恋人の傍らに膝をつき、左手から指輪を回収した。
一年半後、男は新しくできた恋人にその指輪をプレゼントした。
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