第30話

 ヨイチ・ザクヤは、マタオたちが保健室から去ったのを窓の外から確認すると、自分もその場から離れた。


 ふうー、情報収集完了っと。どうだ? 俺のセクス存在エネルギーの消し方は完璧だったか?


 ヨイチは心の中で闇の神具に尋ねた。


 ええ、バッチリよ。白州カオルの所有する加速の神具は感知能力が低いから当然だけど、感知能力の高いキラユイ様や吉良マタオが所有する封印の神具にも気付かれていないわ。完全にセクス存在エネルギーを消せた証拠ね。


 闇の神具は心の中で太鼓判を押すように言った。


 私を所有してそんなに日が経っていないっていうのに、まったく大したもんだわ。普通の所有者だったらまだ自分でセクス存在エネルギーのコントロールができないから、神具の方に任せている段階なのに、なんでそんなに器用なのよ?


 ああ、気配と人の殺し方は小学生になった時点で習うからな、多分その経験が役に立ったんだろう。


 ヨイチは心の中でサラリと答えた。


 ……いや、あたかも当然かのように言っているけれど、それ多分ザクヤ一族だけだからね。小学生になったばかりの人間が習うのは、足し算とか簡単な読み書きでしょ?


 闇の神具はドン引きしながら心の中で言った。


 仕方ないだろ、そういう環境だったんだから。しっかしそれはそうと、吉良マタオがあそこまでお人好しだったとはなぁー、さすがはユイさんの兄貴だよ。こっちとしてはスナズなんか放っておいて、一秒でも早く神具の回収を優先してもらいたいところだが、直接言ったら俺が所有者だとバレて封印されかねないからなー、困ったもんだ。


 ヨイチは校舎裏を歩きながら心の中でなげいた。


 まあそれを言ったところで、他の所有者も自分のセクス存在エネルギーを神具にコントロールしてもらって潜んでいるでしょうから、そう簡単には見つからないわよ。実際に私も吉良マタオと白州カオル以外の所有者を感知できてないし。


 まあそれもそうか。


 ヨイチは心の中で納得しながら闇の神具に答えた。


 ほら、分かったらさっさとセクス《存在エネルギー》を完全に消している状態から、普通の人間ぐらいは微弱に放出するっ! さっきみたいにヨイチが隠れていて視認されていない状況なら完全に気配を消しても問題ないけど、学校みたいに人がいっぱい居るところで一人だけ完全にセクス存在エネルギーを消している状態だと、一発で神具の所有者だってバレるからね。普通の人間は常に微弱なセクス存在エネルギーを放出している状態なんだから。


 はいはい、わかってるよ。


 ヨイチは闇の神具に答えながら、消していた自分のセクス存在エネルギーを普通の人間ぐらいのレベルにコントロールした。


 それにしてもこの力は奥が深いな。神具の能力を使ったり気配を消す以外にも、身体能力の向上や肉体強化もできるんだろ? まるで魔法みたいな力だ。


 人間からしてみればそうかもね、でも当然リスクもあるわよ。配分考えないでセクス存在エネルギーを消費しすぎると、昨日の白州カオルのように活動停止になるし、そんな無理が続けば精神的にも肉体的にも耐えられなくなって簡単に死ぬわ。


 マジで? 昨日俺もやみの神具の能力で色んな影に入って隠れてたけど、寿命とかちょっと縮んでたりする? 


 ヨイチは少し気になって心の中で尋ねた。


 フフッ、大丈夫よ。奥の手じゃあるまいし、影に潜むなんて私の基本的な能力だから、ヨイチのセクス存在エネルギーなんてちょっとしか消費していないわ。それでなくても恥の神具やキラユイ様たちに感知されたらまずいから、かなり気をつけていたしね。全く心配いらないわよ。


 闇の神具は鼻で笑いながら答えた。


 そうか、まあ寿命なんざ多少減っても構わないが、確かにそう言われれば全然疲労感もなかったな。


 でしょ? まあ所有者の方でセクス存在エネルギーを完全にコントロールできるようになれば、私たち神具の能力も所有者主導で発動できるから、セクス存在エネルギーの配分もヨイチの方で把握しやすくなってリスクもかなり減るんだけどね。今後衝突するであろう他の所有者にも対応しやすくなるし。


 ふーん、セクス存在エネルギーを完全にコントロールできるとそんなに違ってくるものなのか?


 そりゃもう大違いよ。むしろそれができないと一人前の所有者とは言えないわ。昨日の恥の神具のような能力でも、完全にコントロールできていれば増大させたセクス存在エネルギーを自分の身体にまとって、ある程度防ぐことだってできたんだから。もちろん所有者のセクス存在エネルギーの総量によっても変わってくるけどね。消費も激しいし。


 なるほど、つまり身体能力向上や肉体強化以外にも、神具の能力からもある程度は身を守れるってわけか。それなら昨日も闇の神具主導で俺のセクス存在エネルギーを増大して身体にまとってくれていれば、コソコソ影に隠れなくても岩井先生を殺せたんじゃね?


 ヨイチは疑問に思って心の中で言った。


 それは無理。神具側でコントロールできる所有者のセクス存在エネルギーは、今のヨイチと一緒で微弱に放出するか、消すぐらいしかできないから。神具固有の能力を発動する時は所有者からセクス存在エネルギーをもらう関係で一時的に大きくなるけど、それはあくまで私たち神具の方にセクス存在エネルギーが集中することによって増大しているだけだからね。だからヨイチが自分でセクス存在エネルギーのコントロールを習得して、身体に純粋なセクス存在エネルギーを纏わないと身体能力の向上とか肉体強化はおろか、神具の能力から身を守るのも無理よ」


 うわぁ、ややこしいな。じゃあ結局俺次第かよ。


 そうね、でもさすがにそこまでのレベルになると、ヨイチでもまだまだ時間がかかると思うから、それまでの間は引き続き私の能力でフォローするわよ。


 闇の神具は彼を励ますように心の中で言った。


 そりゃどうも、しかし増大させたセクス存在エネルギーを身体にまとうねえー。俺も今のままじゃ気配を消すのと微弱なセクス存在エネルギーを出すので精一杯だからなー、どれだけ時間がかかることやら。っていうか微弱なセクス存在エネルギーを出すのに関しては所有者関係なく誰でもできるし、一体どうやったら完全に自分でコントロールできるようになるんだ?


 ヨイチはたまらず闇の神具に助言を求めた。


 そうね、色んな要因があるけど、手っ取り早いのは神具を所有した時間と神具の能力を使用した回数かなー。もちろん多ければ多いほどセクス存在エネルギーのコントロールも上手くなってくるし、それができれば自然と神具の能力も所有者主導で発動できるようになってくるわ。あとはセクス存在エネルギーの強弱を調節したり、放出せずに身体の周りに維持したりする練習も効果的ね。ヨイチみたいに所有者が元々持っている経験とか素質も関係あるけど、とにかく毎日自分の所有している神具とコミュニケーションをとって、セクス存在エネルギーについての理解を深めるのが大事よ。


 闇の神具は先生みたいに説明した。


 へぇーなるほど、当たり前と言ってしまえばそれまでだが、なんでも日々の鍛錬が大事ってわけだな。そういや俺の親父もよく言ってたなあ、才能っていうのは毎日休まずに積み上げる行為のことだって。とにかくセクス存在エネルギーに慣れろってわけだ。


 ええそうね。それにヨイチなら大丈夫だと思うけど、いつまでも私たち神具にセクス《存在エネルギー》のコントロールや能力の発動を依存しているようじゃダメよ。いわゆる所有者が神具に使われている状態だからね。そうじゃなくて所有者がセクス存在エネルギーをコントロールして、ちゃんと神具を使いこなす側にならないと、そのうち神具に身体と心を乗っ取られちゃうから。


 身体を乗っ取られる? それってどういう……


 あっ! ヨイチっ! 微かにセクス存在エネルギーの気配っ!!


 闇の神具は他の所有者の気配を感知すると、彼の問いを遮って心の中で叫んだ。


 

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