第31話
なっ!? どこだ?
ヨイチは驚きながら闇の神具に尋ねた。
数十メートル先、ゆっくり校舎の死角から近づいて来てる。気をつけて、私たちと同じようにあっちもこっちが所有者だって気付いてるっぽいわ。ヨイチが
マジか!? そりゃ良かった。探す手間が省けて好都合だ。所有者を殺せば俺の
ヨイチは闇の神具とは対照的に、心の中でそう答えると自信満々の笑みを浮かべた。
油断しないでよヨイチ、分かってるとは思うけど、私の能力で隠れたり物理攻撃を無効化できるのは光の届かないところだけよ。この時間は太陽も真上で影の範囲も狭いんだから、ちょっとしたミスが命取りになるわ。
闇の神具は昼休みの校舎裏というを状況を確認すると、心配そうに心の中で言った。
それでなくてもキラユイ様たちや他の所有者に感知されるとまずいから、ここじゃ
大丈夫だって、闇の神具が思っているより、俺けっこう強いから。下手したら能力を使う必要すらないかもな、フィジカルに関しては人間の域を軽く超えてるし、大人のゾウとか素手で殺せるレベルだから。それにどんな神具なのかは知らないが、派手に能力を使えないのはむこうも同じだろ? まあ見てろって、元ザクヤ
あっそ、じゃあお手並み拝見させてもらうわ。来たわよ敵が。
そして闇の神具の言葉通り、すぐにそれは校舎の角から現れる。しかしその予想外の姿にヨイチは驚いた。正確に形容すると人間の形をした光の塊である。
「なっ!? なんだ!? 眩しいっ!!」
ヨイチはたまらずその光の塊から目を逸らして叫んだ。それと同時に彼の腹部に衝撃が走り、数メートル後ろに吹っ飛ばされる。
「うっ!!」
なんだ今のスピード!? しかも影の中にいたのに腹を殴られた? どうなってる?
ヨイチは素早く受け身をとって立ち上がると、不可解なダメージの理由を闇の神具に尋ねた。
うわぁーあの所有者、
ひ、光の神具だと?
ええ、ほら足元見て。
ヨイチはテンションが下がっている闇の神具に促されて視線を下に向けた。
さっきまであった影が無くなってる!?
そっ、当たり前だけど光の神具が能力発動すると周りの影もなくなっちゃうからねー。だから物理攻撃も防げないし、もちろん影の中にも入れない。私の能力はかなり制限されちゃうわ。
マジかよ、つーかスピードもやばいし、
いやそれはないわ、あのパワーとスピードはあくまで光の神具の能力によるものよ。光の塊に隠れている所有者の身体からは微弱な
闇の神具は冷静に状況を分析しながら言った。
じゃあなんでこんなに力の差があるんだよ?
し、仕方ないでしょっ! 日中は光の神具の力が増して、私の力は逆に弱くなるんだからっ! 夜だったらあんな奴に私が負けるわけないんだからねっ!!
闇の神具はプンプン怒りながら心の中で言った。
……知らねえよ、そういう大事なことは早く言ってくれ。
うるさいわね、さっきまでの威勢の良さはどこにいったのよ? 私が思っているよりヨイチは強いんでしょ? 能力を使う必要もないって言ってたのはどの口だっけ? さっさと元ザクヤ一族の力を見せてみなさいよ。
闇の神具はムッとしながらヨイチに言った。
はいはい、俺は自分の発言にはきちんと責任を持つ男だからな。
ヨイチはそう答えると、突っ立ったまま大きく息を吐いて目を閉じた。集中力を高めているようである。
ふーん、それでどうするのよ? いくら光の神具の所有者が眩しくて速いからって、目を閉じたらなにも見えないじゃない。
いいんだよこれで、
だからどうやってよ? 目を閉じてるんだから捕まえられないでしょ?
闇の神具は不可解なヨイチの行動に焦って尋ねた。
ザクヤ一族では目をつぶされた時でも戦えるように日々訓練してるんだよ。音と空気の流れだけでも相手の動きぐらい大体分かる。
うわっ、気持ちわるっ。
そしてヨイチは闇の神具の誹謗中傷に屈することなく、引き続き目を閉じたまま達人のような佇まいで待ち受けた。しばらく様子を見ていた光の神具の所有者は、タイミングを見計らって再度とてつもないスピードで迫ってくる。
来たわよっ!
闇の神具が心の中で思わず叫んだと同時に、ヨイチは超人的な反応で腹を殴ってきた光の神具の所有者の拳を鮮やかに受け流し、そのまま流れるような所作で背後からしがみついた。
「はっはー! だよな? 性格悪いやつは同じところを狙うんだよ、さっき骨を折った箇所をな。攻撃してくるところさえ分かっていればこっちのもんだ」
ヨイチは捕まえた光の神具の所有者に得意げに言った。
「最初からお前なんざ敵じゃないんだよ。鍛え抜かれた俺の指先はナイフだ。頭蓋骨ごと貫いてやるぜ」
彼は決めゼリフのようにそう言うと、ピーンと伸ばした右手で敵の頭部らしき箇所を思いっきり突き刺した。すると「ぎゃああーー!!」という叫び声が校舎裏に響く。しかしそれは光の神具の所有者によるものではなく、なぜかヨイチから発せられた声だった。
「いだいー!! 死ぬぅー!! なんで俺の指が折れてるんだっ!?」
ヨイチはせっかく捕まえていた光の神具の所有者を解放し、地面に転げ回りながら言った。
あっそうだった、言うの忘れてたけど私の所有者であるヨイチも日中は力が弱くなるからね。気をつけて。
闇の神具は思い出したように心の中で言った。どうやらうっかりしていたようである。
だ、だからそんな大事なことは最初に言っておけっ!! くそっ、一帯を闇に染める
うわダッサ、結局は私の能力頼り?
ヨイチは闇の神具にそう言われながらも、情けなく能力を発動してもらって敗走するのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます