第27話

「こらっ! 君たちやめないかっ!」


 マタオは五財ございスナズを暴行している男子生徒たちに声をかけた。


「見てて不快なんだよ! 四人で一人をポコりやがって!」


「ああっ!? その制服は二年生か? なんすか先輩?」


 暴行を加えていた四人の中から、ガタイの良いリーダー格らしき男がマタオに視線を向けて言った。制服の胸ポケットに印字されている二本線を見て、マタオを二年生と判別したようである。


「その言い方じゃ、まるで俺たちがコイツをイジメているみたいに聞こえるんですけど」


「どう見てもイジメているだろっ!」


 マタオはリーダー格の男を睨んで言った。


「だから勘違いですって、俺ら格闘技の練習をやっているんですよ。コイツが弱い自分を変えたくて強くなりたいって言うから、なあスナズ? 先輩に誤解がないように説明してくれや」


 うずくまっていたスナズは男子生徒に促されると、よろよろとマタオの足元まで這って移動し、視線を上に向けた。彼のつけていたメガネにはヒビが入っている。


「せ、先輩、小生しょうせいは大丈夫でござるよ。彼らの言う通り、自分で頼んでやっておりますゆえ、情けは無用です」


 スナズは独特な口調で言った。


「……本当かい? 僕には君がそう言わされているようにしか見えないんだが、もしそうなら君のためにも、こいつらのためにもならない。ちゃんと言うんだ、助けてくれって」


 マタオは腰を落として、彼と目線を合わせながら言った。


「先輩は優しいのですな、でも放っておいてくだされ。嫌なことは全て小生しょうせいが引き受けるでござるよ。なあに、これも副委員長としての仕事の一つですぞ」


「何カッコつけてんだクズ野郎!!」


 リーダー格の男は、余計な発言をしたスナズの顔を蹴りつけた。かなりイラッとしたようである。


「ぐはっっ!」


「ヒョロガリ、オカッパハゲ、丸メガネの三重苦が調子に乗りやがって! 何が嫌なことは全部引き受けるだゴミカスゥ! まったく困った野郎だ、先輩もこんなヤツ構わない方がいいですぜ、副委員長になったのもクジ引きでコイツに決まっただけで、本当はクラスの嫌われ者ですから」


「いいからやめたまえっ! 格闘技の練習でもダウンしている相手の顔面を蹴るのは反則だろうがっ!!」


 マタオは地面にグッタリ倒れているスナズの前に立ち塞がって言った。


「ハハッ、確かにそりゃそうだ。まあいいですよ、どうせ無駄な努力になると思いますが、先輩に免じてこのぐらいでやめておきますよ。おい、お前ら行くぞ!」


 リーダー格の男が教科書通りの捨てゼリフを吐くと、彼らは笑みを浮かべながらその場を立ち去ろうとした。しかしのろのろとやって来たキラユイに呼び止められる。


「おい待たんかい!!」


「はっ!? き、キラユイさん!? 俺らみたいなもんに何か用でしょうか?」


 リーダー格の男子生徒はクラスのマドンナである彼女に声をかけられたので、めちゃくちゃドキドキしながら答えた。しかしマドンナだったのはあくまでも過去の話である。


「用も何もあるかぁ! なんで途中でやめるんやっ! 最後の一人になるまで殺し合わんかい!!」


 キラユイはリーダー格の男の胸ぐらを掴んで怒鳴りつけた。


「ちょ、ちょっとキラユイさん、暴力はダメですわよ」


 カオルは彼女の後ろで声をかけたが、キラユイの耳には届いていない。


「えっ!? 最後の一人までって、バトルロワイヤルじゃないんですから、さ、さすがにそれは無理っす!」


 リーダー格の男子は、キラユイに胸ぐらをグワングワン揺らされながら答えた。


「無理なことあるかぁ!! ほれ、これではようスナズの喉をかっ切らんかい!! まずは弱っとる奴からやっ!」


 キラユイはステーキを切る時に使っていたナイフをリーダー格の男の手に握らせて、殺人をそそのかした。


「いや無理っす無理っす!」


 リーダー格の男は苦笑いをしてそう答えると、キラユイから渡されたナイフを慌てて地面に放り投げて、急いで仲間と逃げ去ってしまった。


「……なんやあいつら、情けない奴らやで、チンポコついとんのかチンポコぉ」


「おちんちんが付いているかどうかは関係ありませんわよ、まったく、キラユイさんはおてんばさんなんですから」


 カオルは落ちているナイフを拾ってハンカチで拭くと、キラユイには返さずに自分のポケットに入れた。後で返却するようである。


「お前らは何をやっているんだよ」


 マタオは呆れながら彼女たちに言った。


「ワシはこれを機にランチタイムのバトルロワイヤルを興行こうぎょうにできんかとおもただけや。絶対おもろいで」


「興行にならないだろ、気持ち悪くて最高級の食材が地面にぶちまけられるだけだ」


「お二人とも、そんなことよりスナズさんが動かないですわよ」


「あっ、そうだった、大丈夫かいスナズ君?」


 マタオは再度地面にうずくまっている彼に声をかけたが、気絶しているらしく反応がない。


「よしっ、一人脱落や、あとは逃げた四人やで」


「キラユイさん、不謹慎ですよ、スナズさんは死んでいません。早く保健室に運びましょう」


 カオルは珍しく委員長らしい態度で言った。


「ああ、僕が背負って行こう、しかしこれは重症だな」


「どこがや? ちょっと気絶しとるだけやろ」


「そう言う意味じゃない。イジメが蔓延しているこの状況を言っているんだ」


 マタオは深刻な面持ちで彼を背負うと、キラユイたちと保健室に向かった。

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