人に語ってもらっても困るけど、自分では語りたい

@poyontan

第1話

化学調味料の味が好き。

母は、化学調味料を子供の成長によくないものと考えており、できるだけ食べさせないように心を砕いてくれていた。「味の素」「ほんだし」など体によくないものの親玉かのように思っていたフシがある。だって味の素は石油からできているのだもの、本当のお出汁の味は美味しいのよ、こんな旨味の塊は本当の味ではないのよと、それこそ手間をかけて出汁をとりながら、子供たちに折に触れて言っていた。

しかし、親の心子知らずとはよく言ったものである。子供の私は、親の眼を盗んでは化学調味料がどっさり使われているスナック菓子やインスタント食品を食べては、幸せに浸っていた。

「味の素」は神秘の粉だった。炊き立てのツヤツヤご飯にのせられた生卵、その黄金色の黄身の上にぱらぱらと振り掛けられる細長い結晶。ただでさえ美味しい卵かけごはんが、味の素をかけると3倍美味しくなるのだ。

インスタントラーメンは、憧れの食品だった。一袋数十円の袋ラーメン。そのスープの旨味に、子供だった私は深く魅せられたものだった。昭和の時代のそれは、塩見がきつく、ただ旨いだけの平坦な味だったと今ならわかる。しかし、それがたまらなく魅力的で、こんな美味しい物、大人になったら毎日でも食べたいと思っていた。それが昂じて、学生の頃は明治屋で東南アジアのインスタントラーメンを見つけては購入し、どっぷりはまることになったのだ。

我が子に本当の美味しい物を食べさせたいという母の気持ちは本当にありがたいものだったが、幼い私には旨味の魅力から目をそらすという選択はできなかった。


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