真夏の小山

松浦 由香

第1話 真夏の小山

 それは、夏休みをとった旦那が、どうしてもどこかに出かけたいと言い出したから、別に興味はないだろうが、家から車を出すにはまぁいい距離なので、出かけることにしただけで、本当は、あまり期待していなかった。

 私は、わりと第二次世界大戦のものを読むことが好きだった。とはいっても、戦況や政治的思惑とかまるで興味はなく、多くの亡くなった人たちのバックグラウンドを読むのが好きだった。

 まったく知らなかったけれど、戦艦武蔵や、大和の生き残った船員たちは、一度も日本に帰ることなく、陸戦に送り込まれた話しや、沖縄の、少年兵団が居た話しなど、胸が詰まる思いがする話しが好きだった。

 そういう話を見聞きして、戦争を疑似体験し、平和でいたいからこそ学ぶ。という姿勢だ。

 だけど、高知に戦争の被害なんて、高知市の大空襲くらいしか知らない。小学校でちらっと習ったけれど、かなり広範囲が焼けつくされたという。

 夏になると、市役所の入り口に当時の写真が張り出されるのを見たが、何にもなくなってしまった市内にぽつんと高知城が建っていた。

 私の、古里の戦争資料はその程度だった。ただ、高校の時に一度何かの活動で見に行った「エンタイゴウ」が見たくなった。

 旦那に話すが、それが何か解らないようなので、とりあえず行ってみようということになった。

 真夏の、容赦ない太陽。真っ青な空の下、冷房がフル活用する車で一路南国市へ。

 南国(なんごく)ではなくて、南国市(なんこくし)濁らないんですよ。

 ナビでは、このあたりを曲がってというとおりに入っていく。

 迷子になったか? と思うような田んぼの中。これは、農業道路ってやつじゃないの? というところを走ってすぐに見えてきた。

 丸い屋根の、小山。人工的に作られている山。山というか、コンクリのお稲荷さんのようなやつ。

 一番大きいやつの近く、と言っても田んぼのわきに車を止めて、なんかよく解らないが、整備されている道を進む。

 姿を見せたそれは思った以上に大きくて、そして、なんだかぞっとするようなものだった。

 掩体壕えんたいごう。それは、戦争当時戦闘機を的攻撃から守るために作られたもの。つまり、この中にゼロ戦が入っていたんだなぁ。と。

 飛行機の形に見えなくもない内部の空洞。

 中に入って見学できるので見てみれば、70年以上も前のコンクリは頑丈なようで、雑で、でも、この雨の多い高知にあって朽ちないのは昔の技術はすごいんだろうと思う。

 ところどころ色が変わっていたりするけど、なんで変わっているか解らない。

 外が異常に暑かったのに、その中はひんやりとしていた。

 くるりと周りを廻って感心していると、説明板みたいなものを見つけて近づく。

 あ、駐車場、こんなところにあった(笑)と言いながら、説明文を見る。

 特別市が管理をし保管しているわけではないけれど、これは大事な戦争遺産でる。

 なんだか胸が詰まる思いで回りを見れば、小さめの掩体壕がちらほら見える。

 ただ、その掩体壕の上に、布団が干してあったり、中は倉庫代わりになっていたりするものもあった。

 まぁ、使用することで後世まで残るっちゃぁ残るか。

 と思いながら、まだまだ暑い夏の日差しの中、冷房強めで帰宅したとある日の思い出でした。


 

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真夏の小山 松浦 由香 @yuka_matuura

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